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2nd Season
17.雨のち、雨。


俺は、自分が…辛い、寂しい、切ない、そういった思いをしたくなくて、でも否応無くそういう感情はすぐにやって来て、ひたすら我慢した。

我慢して、堪えて、………それが皆にバレなければいいのだと考えてた。

今の、苦しい感情の吹き溜まりから抜け出すまでの辛抱だと、思い込んでいた。

でもそれは、全部自分の一番奥底が傷付かない為にとった策だったんだ。

自分の事しか考えてなかった。

アズマ君の記憶がすぐでは無くても戻って欲しいと、思っていたのに。

すぐでは無くてもと思っていたのは、あの事故の直前の俺がアズマ君を傷つけた時の事を忘れたままでいて欲しかったから。

ずっと忘れたままじゃなく、記憶が戻って欲しいと思っていたのは、俺を忘れたままなんて本当に嫌だし、2人で過ごしてきた時間や色々を無しにはしたくなかったから。

どれも、自分の都合じゃないか。

記憶を失くしてる間のアズマ君がどう思ってるか、記憶を取り戻した時のアズマ君がどう感じるか、………それこそ、記憶が戻らないままのアズマ君がこれからどうするのか。

今の今迄、欠片も考えたりしなかった。


『ヒロユキに言われるまで、気付かなかったんだろ?』


あの時に言われた言葉が頭に浮かんで、俺はまた後悔する。

ヒロ君や織田さんが、19歳のアズマ君が荒れてて心配だって言ってたのは、俺に対してだけじゃない。どちらかというと、アズマ君に対してだったんだ。

本当に、俺は……バカで最低だ。


床についた手が、無意識にフロアを引っ掻いた。

悔しい、俺の事なのに、俺達の事なのに、また周りの人に教えられる迄気付きもしないなんて、考えもしなかったなんて。

自分の情け無さに、腹が立つ。

…………でも、それが俺なんだ。

周りに教えて貰って、助けられて、守られて、そうやってしか何とかやって来れないのが俺だったんだ。

今迄俺に手を差し伸ばしてその役をしてくれていたのは、

「…………アズマ君…、」

口から、俺の心を占める愛しくて大切な人の名前が零れた。

記憶を失くしてすぐの時、ギブスが取れる時、何度も自分のマンションに帰るように言ってたくせに、離れたくないと思っていた矛盾した自分が居た。

自分を覚えていないアズマ君でも、俺を知らないアズマ君でも、一緒に居たいと思ってる自分がいた。

アズマ君と離れる?

本当にいざアズマ君と離れて生活をしたら、俺との繋がりは無くなってしまうと分かっていた。

だって、マンションでしか俺達は会話らしい会話をしていなかった。

俺がアズマ君をそんな状況に追い込んだのに、………俺がアズマ君との僅かな繋がりに、必死に縋り付いていたんだ。

「………俺は、またヒロ君に言われるまで自覚できなかったんだね。」

下を向いたまま、鼻を啜ってやっと言葉を繋いだ。

「いいさ、何度でも教えてやる。」

ヒロ君のいつもの落ち着いた優しい声。

俺とアズマ君が拗れた時に、いつもヒロ君は声を荒げて俺やアズマ君を叱ってくれてる。

いつも冷静で周りから皆を見てる、実は面倒くさがりのヒロ君が、声を大きくして人を叱るのは、その人の事を本当に心配してるからなんだ。

「……ありがと。」

短く言って、袖で目を拭った。

アツシが俺の腕を引いて立たせてくれて、促されるまま長椅子に座った。

「まず、アズマと一緒に住むのを一回解消しろ。」

「でも、ナツ君が未成年だから住んでもらったって言ってたじゃん?ナツ君が困るんじゃないの?」

ヒロ君が言った言葉に右隣に座ったアツシが疑問を投げた。

「ソコは、まぁ俺かオダッチか……誰か変わりに住む事にするんだ。建て前は。」

「建て前?」

アキラとアツシが声を揃えて言った。

「………多分、無理。何回か言ったんだけど、不自由だからって、そのつもりが無いみたい。」

ギブスが取れる前日に切り出した。あの時からおかしくなってしまった。

「なぁ、ヤマナツをセフレだって思ってるのは確実か?」

ウツミ君が窺うように俺に聞いて話しに入って来た。

「自分の持ち物とか見て、最初は俺に友達だったんじゃないんだろうって、聞かれた。」

皆が俺を見て、何となく察したのか苦笑いしてた。

「もし………そうだったのなら、思い出したくもないって……。」

「思い出したくもない癖にお前に手ぇ出したのか、あのバカ。」

ヒロ君が間髪入れずに突っ込みを入れた。周りの皆が吹き出してた。

オオサワ君やウツミ君も椅子に座ってヒロ君の話に耳を傾けた。

「お前さっき、早くアズマと出会いたかったって言ってたけど、それは間違いだぞ?」

座った俺の前にしゃがんで俺を見上げるヒロ君が、俺に向かって指を差した。

「19のアズマであの状態だぞ?お前らが早く出会ってたら絶対好き合ってなんか無い。」

「そうだな。アズマが本能でこの先お前に恋心を抱いても、ヤマナツがアズマを好きには……ならねぇだろうな。」

「19のアズマ君に出会ってないナツ君が羨ましい位だもんね。」

次々と皆がアズマ君の事を滅茶苦茶に言い出した。

「………アズマが事務所から強く叱られて心を入れ替えたのは、20になる直前だった。」

オオサワ君が机に肘をついて手に頭を乗せた格好で俺にそう教えてくれた。

「ナツ君とアズマ君は………あの時に出会ったから、お互いに惹かれ合ったんだと思うよ。」

俺の隣に座ったアキラが嬉しそうに笑って言った。

「よし、じゃぁ話戻すぞ?」

ヒロ君が俺の前で腰を下ろして座り込んだ。

「お前に手を出した位なんだから、男同士って壁は今のアズマにも越えられた訳だ。」

何か考えがあるみたいに確信を持って話し出したヒロ君を皆で見た。

「ヤマナツにアズマの他に好きな奴が出来た事にするんだ。」

「………それって、あまり解決になってないんじゃないの?アズマ君はナツ君の事セフレだと思ってんでしょ?」

アツシがヒロ君の言葉に納得がいかない顔をした。

「ん〜……確かに。今のアズマなら、ヤマナツに好きな奴が居ようが身体だけの関係を続けるだろ。」

腕を組んだウツミ君も難しそうな顔で呻ってた。

「その好きな奴と恋人同士になった事にするんだ。それもアズマが良く知ってる奴と。」

「まさか……、」

何の躊躇も無しにその企みを俺達に語るヒロ君。オオサワ君が察したようにヒロ君を見てた。

「俺らの内、誰かと。」

ぐるりと周りを見回してヒロ君が言った。

「…………俺は無理。つか、すぐバレそう。」

アキラが一番先に声を上げた。

「じゃぁ、俺もダメかもね。」

アツシが苦笑いした。

「俺が…って言ってもいいけど、それはやっぱヒロユキじゃねぇか?」

ウツミ君がヒロ君を指差した。

「今一番ヤマナツともアズマとも近いしな。」

俺とヒロ君を交互に指差してオオサワ君も言った。

「………ダメだよ、そんなの、皆を巻き込んでする事じゃないよ!」

どんどん進んでいく話に、漸くストップをかけた。

俺と誰かが恋人なんて、振りだけでも迷惑を掛けてしまう。

「巻き込めよ!」

ヒロ君が俺を見上げたまま大きな声を上げた。

「お前、もうちょっと必死になれよ!お前とアズマの事なんだぞ、俺ら以外の誰がするって言うんだ!」

真っ直ぐに俺を見る目は、凄く真剣で俺の全てを射抜く勢いのものだった。

「確かに。ヤマナツはもうアズマを諦めかけてるだろ?」

溜め息をついてオオサワ君が俺に問い掛けた。

「元に戻る可能性なんて元から低いんだ。やれるだけの事は色々やってみろよ。今より悪くなるなんて無いだろ。」

いつもの笑顔で、みんなをまとめる説得力のある口調でウツミ君が俺を指差して言った。

「アズマを取り戻せよ、もっと足掻け。」

ヒロ君の顔も柔らかい笑顔になってた。

「じゃぁ、ヒロ兄が今からナツ君の嘘恋人ね。」

こちらも楽しそうにアツシが言った。

「嘘恋人か。どこまでやっていいんだ?」

意地悪そうな顔で笑ったヒロ君が俺に聞いた。

「………何する気?」

皆につられて思わず笑った俺に、皆が次々と立ち上がって俺の頭や肩を叩いた。

「そうこなくちゃ!」

アキラが嬉しそうに俺の肩に腕を回した。

「じゃ、作戦開始。」

ヒロ君が俺の腕を引いて立ち上がらせた。

「今日からまず俺もお前のマンションに住む。」

「………部屋、無いよ?」

少し考えてそう答えた俺に、皆が声を揃えて口を開いた。

「何言ってんだ、一緒の部屋でいいだろ。」

口を開けたまま唖然とした俺に、アキラが笑いながら言った。

「恋人なんだから。」

そうか、そうだよな………。

「俺からアズマに言ってやるから。で、できるだけ早く出てってくれって言ってみる。」

自分もアズマ君に引越しを促していたのに、本当にアズマ君が出て行くのを想像したら、少し胸が苦しくなった。

「アズマが引越したら俺も出てくから安心しろ。」

そんな心配はしてないけど、今の状態で居る方がいけないんだよな。

「よろしく、お願いします。」

下を向いてヒロ君にお願いした。

「よし、じゃぁアズマが来る迄に着替えてどっか行ってろ。話しは付けておくから。アツシとアキラ、ヤマナツ頼むぞ。」

2人が返事をして、ヒロ君がウツミ君とオオサワ君に何かを頼んでた。





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あきゅろす。
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