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2nd Season
20.快晴の凪。


ヒロ君も一緒にマンションに帰ると、アズマ君とは一言も話さなかった。

「四六時中一緒にいる訳には行かないけど、出来るだけアズマと2人にならないようにしろよ?」

「分かった。…………てゆうか、狭いでしょ?俺、下で寝るよ。」

俺の部屋のシングルベッドに、かなりくっ付いて2人で寝転んだ。

「恋人だろ。別々でなんて変だろ。」

「ここまですると……思わなかったけど。」

苦笑いした俺に、ヒロ君も一緒に困ったように苦笑いした。

「だって、この部屋…、」

ヒロ君が片肘をついて俺に向き合って、何かを言いかけた時、ドアが音を立てて開いた。

「マジで一緒に寝てんのか。」

それだけ言ってまたドアを閉めて、アズマ君の「おやすみ」って声が聞こえた。

「………鍵、ついてねぇな…と思ったんだ。」

「なるほどね。」

親指を立ててヒロ君が歯を見せて笑った。さすがヒロ君はアズマ君の行動をよく分かってる。

「何もしねぇから、もっとくっ付いてもいいぞ。」

「………優し過ぎだよ、ヒロ君。」

フフフって、つい笑った声が漏れてしまった。

いくら俺が鈍くて、男心が分かってないバカでも、そこまで無神経に甘えないよ。

「ありがとう。今日は久し振りに朝まで寝られそうだし。」

………3日前、朝方にアズマ君が部屋に入って来てこの部屋で無理矢理身体を開かされた。その前の晩に「いつ位に引越すのか」と問い掛けたからか。

自分の部屋に居ても落ち着かない夜を過ごして、昨日の朝には何も心当たりが無いのにいきなり服を脱がされて……。

「アズマの記憶が戻ったら、殴ってもいいか?」

「…………だめ。また俺の事忘れたら嫌だから。」

ヒロ君が俺の前髪をかき上げるように髪を梳いて「そうだな」って静かに言った。その与えられる感触はとても気持ちが良くて、目を閉じた。

「……でも、ボディならいいよ。」

「ぶ、……ボディか。よしボディにしとく。」

吹き出したヒロ君の声が優しかった。おでこに、やわらかい感触が触れた。

「おやすみ。」

短く言われた言葉に、返事ができなかった。

もう頭は何も考えたくなくて、意識を手放しかけてたから。





朝、目が覚めるとヒロ君が居なかった。ベッドから降りてドアを開けたら、リビングからアズマ君とヒロ君の声が聞こえた。

………本当に、良く寝てしまった自分に少し呆れた。

「おはよう。ごめん遅かった?」

「いや、良く寝てたから起こさなかっただけ。」

ヒロ君が俺にそう言ったのを、アズマ君は黙って見てた。

「ご飯、作るね。ヒロ君はご飯?パン?」

「どっちでも。お前らは何食べてたの?」

問い掛けに答えながら俺とアズマ君に聞いた。

「大体パンかな。」

アズマ君がヒロ君にそう答えて、ソファから立ち上がった。

「じゃあ……今日はご飯にするよ。」

アズマ君を見ないで、キッチンへと向かう俺にヒロ君が付いてきた。

「手伝おうか?」

「ううん、アズマ君と居て。」

そう短く返事をした俺をじっと見た後、ヒロ君が更に近付いて来て、小さい声で話し掛けてきた。

「今日の夜には引越すつもりみたいだから、俺も今日迄な。」

俺があんなに言ってもその気にならなかったのに。

今の状態のアズマ君でも、さすがに恋人同士の家には居辛いって事なのかな。

意外に早く信じてくれて、事が大きく動いて、呆気無さを感じてしまった。

冷蔵庫から色々取り出して、次々と朝ご飯を作り始める俺を、ヒロ君が黙って見てた。

「………へぇ、手際がいいな。料理得意なのか?」

「出来るだけで、得意じゃないよ。」

同じメニューしか作れないし、本を見ないとちゃんとしたものは作れない。

「前に……アズマがお前の料理は男の手料理だって言ってたから、ちょっと驚いた。」

そんな事あったっけ。

「俺、男だから。間違いじゃぁないでしょ。」

思わず笑った俺は、キッチンの入り口に立つヒロ君にそう言った。

「アズマがお前をデザートに頂いた日の話だよ。」

小さくそう言い残して、ヒロ君がリビングに戻って行った。

あの日の……事だと、すぐに分かった。

アズマ君の誕生日に何もプレゼントを用意出来なかった俺に、手料理が食べたいとリクエストされた。

何とか料理は出来たものの、プレゼントとしてはお粗末な結果になってしまったんだっけ。

鍋敷きの代わりに雑誌をテーブルに敷いたっけ。

「ふふ、」

思い出し笑いが零れた。

卵を割りながら、その日の事を思い出した。

色々恥ずかしい事もあったけど、その日はアズマ君の誕生日では無かったけど、俺にはとても大切な日だった。

テーブルに出来上がった卵焼きやおかずを盛り付けた皿を並べた。

「ごはんだよ。」

そう声を掛けたら、ヒロ君とアズマ君が楽しそうに話しながら来た。

4つある椅子のこちら側に俺とヒロ君、向かいにアズマ君が座った。

「何、この卵焼き……しょっぱいな。」

卵焼きを1口食べたヒロ君が驚いて声を上げてた。

「甘い方が良かった?」

「いや、美味いな。初めて食った。」

残りの卵焼きも口に入れながらヒロ君が言った。

「ん、俺もコレ好き。美味いよな。」

話の流れみたいにアズマ君が言ってから、卵焼きを口にした。

やっぱり。覚えてるんだ。

あれから、しょっぱい卵焼きは作っていないのに。

アズマ君は無意識みたいだから、俺も敢えて何の反応もしないでお味噌汁に口を付けた。



ヒロ君の運転するヒロ君の車で事務所まで行くと、車から降りる時にアズマ君に腕を掴まれた。

「ん、コレ。」

手を差し出されて、咄嗟に手を広げて受け取った。マンションの鍵だった。

「大体必要そうなもんは、もう持って来た。後の服とかはいらねぇから捨てといて。」

「え?だって、」

一昨日………あんまりイメージが変わったらマズイって言ってたじゃん。わざわざマンションに取りに行ったのに。

「テレビもベッドもラグも、俺のマンションには必要ねぇから。ヒロユキに使わせたら?」

そう言って、バッグを2つ持って車から降りた。

何だ………、本当に呆気ない……。

鍵を握り締めて、前を歩くアズマ君の背中を見た。事務所の人に挨拶しながら頭を掻いてた。

アズマ君の頭を掻く癖、………気付いた時はおかしくて…嬉しかった。

俺の知らなかったアズマ君の1つ1つを知っていくのが楽しくて嬉しくて、…………アズマ君も少し位はそう思ってくれてたのかな。それを確認する事はもう出来ない。

「ヒロ君、…………やっぱり、いいや。」

俺の隣を歩くヒロ君を見ないでそう言った。

「アズマ君、もうマンションには来ないみたいだし、いつまでもヒロ君に守られてるだけなのも、何かやだ。」

返された鍵を見せて、ヒロ君を見た。

「俺も新しく、これからの時間を進む事に決めた。」

「…………ヤマナツ、」

ヒロ君が嘘の恋人をしてくれた、たったの一日で、自分がどんなにアズマ君を好きなのかを思い知った。

「諦めたんじゃないよ。そう決めたんだ。」

俺をじっと見てるヒロ君に笑い掛けた。

鍵を鞄のポケットにしまうと、もう遠くへと歩いていったアズマ君を見た。

「アズマ君に出来て俺に出来ない訳なくない?」

俺が小さい声でそう言って笑ったら、ヒロ君も笑った。

「あ〜あ、俺一日で振られた訳か。」

「アハハ、………優しかったよ。ありがと。」

冗談ぽく言ったヒロ君に、お礼を言った。

昨日の夜、寝る前にヒロ君がしてくれた……アレ、アズマ君も見てないのに嘘の恋人にあんな事しないよね。

甘えちゃいけない。

本当に鈍いだけの俺じゃダメ。

色々、気付かせてくれたのは……やっぱりアズマ君の存在。



「ショック療法はどうだった?」

オオサワ君とウツミ君が、エレベーターに一緒に乗り合わせた時、扉が閉まった直後に聞いて来た。

「変わらずでした。」

おかしくて少し笑って答えたら、ウツミ君が俺の顔を見て何か言いたそうだった。

オオサワ君が、腕を組んで少し呻った後静かに言った。

「やっぱり、アツシの提案したショック療法の方が効くかもな。」

「どんなですか?」

あまりの真剣な表情に、続きを知りたくなった。

「階段から突き落とす。」

……………え、

「もしくは2階から植木鉢を落とす。」

………………酷い。

「ぶ、」

その酷く漫画チックな発想に、思わず吹き出してしまった。

「それって、いかにもな………、」

「きっと医学的には絶対やっちゃダメな方法だろうな。」

俺とウツミ君とオオサワ君は、一斉に笑い出して3人で声を合わせて言った。

「全く、アツシは。」

本人が居ないのに、こんなに笑われてるアツシって。



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あきゅろす。
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