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2nd Season
18.曇り時々雨。


『アズマを取り戻せよ!もっと足掻け!』


アズマ君が元に戻る?

元に戻って欲しいと思っていた筈なのに、皆が協力して何かをしてくれるのに、

何で、俺は浮かない気分なんだ………。



「でもさぁ、アズマ君って……何でよりによって19歳に戻ったんだろ。」

「あ、俺も思った。3年だけって微妙だなって思った。上京したてとか、ハイグレになった直後とか、まぁ医学的にもそんなの説明つかないんだろうけどさ。」

着替えた俺を連れて、開いている控え室に入った。直ぐに使用する人が現れるかもしれないから、一応ドアは開けっ放しで。

アキラとアツシが話してるのを聞きながら、さっき渡された台本に目を通した。

今日は……『アスタリスク』を皆で歌う。

俺のソロシングルだけど、元はコンサートで皆で歌ったのが最初だった。売り上げが好調だと事務所から褒めて貰って、更にイメージを上げる為に皆で俺の伴奏で歌う事になった。

『アスタリスク』は………アズマ君をイメージして作った曲。

「俺の事を………忘れたかったんじゃないかな。」

アキラとアツシが俺を見た。

「あの日、リハーサルの前に俺……アズマ君の心を傷付けたんだよな。」

「………ケンカ、したの?」

真っ直ぐに俺を見る2人。俺は台本を閉じてどこを見つめるでもなく天井へと視線を向けた。

「アツシと俺………泊まりに来てくれた時にキスしたじゃん?あれ、ヒロ君にばれちゃって。」

思い出したら、自分が本当に無神経だったと今なら分かる。

「は?キスしたの?って、キス位でアズマ君傷付かないでしょ。怒るかもしんないけど。」

アキラが眉を顰めて俺とアツシを見た。

「………ごめん、俺が調子に乗ったんだよね。」

「ううん、俺も……何も考えて無かった。」

謝ったアツシに、短くそう言った。

「普通の遊びのふざけたキスなんかじゃない、あれは違うものだって……分かってなかったんだ、俺バカだよね。」

ふふ、って、思わず笑ってアツシを見た。

「さすがに、あの時はヒロ君も俺に呆れてた。謝るなら早い方がいいって、俺に言ってくれた。」

アキラとアツシは俺の顔をじっと見てた。

「…………アズマ君に話して、謝ったら……全然怒らないの。」

瞼が沁みるように熱くなった。

俺がアツシとのキスの経緯や、自分が何も考えてなかったと話すのを黙って聞いてたアズマ君の表情が何の変化も無かったのを思い出す。

「何で今謝るんだ、って……、ヒロ君に言われるまで気付かなかったのかって……。」

怒ってなかった。責めるような口調でもなかった。

「気持ちの良いキスは、好きな人とする……特別な大事なものだったのに………。」

『分かってなかったんだろ?』

そう言ったアズマ君が凄く寂しそうだった。

「…………俺の、せい…なんだ、」

アキラがメイク台からティッシュの箱を取った。

「俺が、アズマ君に俺の全てを忘れさせてしまう位……酷い事したんだ。」

目から次々と溢れる涙が、頬から顎から下へと落ちる。

「ナツ君。」

アツシが俺の名を呼んだ。

「でも、アズマ君は……ナツ君を守ろうとしたんだよ?忘れたかったって事は無いと思うな。」

「確かにあの時一番近くに居たってのもあるけど、落ちてくナツ君に手を伸ばして必死だった。」

アツシとアキラが俺の顔にティッシュを押し付けた。

「アズマ君はナツ君が凄く大事なんだよ。」

アツシが俺の顔を覗き込んで言った。

「さっきヒロ兄が言ってたけど、アズマ君って本当にナツ君の事可愛がって大事にして甘やかして、凄くナツ君を、愛してた。」

じっと俺を見るアツシの黒目がちの目が、瞬く度にその黒に吸い込まれるように目が離せない。

「去年の夏に、ナツ君達ちょっと拗れたじゃん?あの時から2人が凄く深く付き合うようになったのは、俺達皆知ってるよ。ナツ君も変わったし、アズマ君も変わった。良い意味で。」

アキラと目配せしてたアツシがはにかんだ様に笑った。

そうだ、あの時も俺はアズマ君に言われてた。

『俺が大事なのは、お前だけだ。』

『お前が傷付いた以上にたくさん好きだって言って抱き締めて、愛されてるって自覚させてやる。』

『俺に出来るのはそれしかないんだ。』

はっきりと、アズマ君の全てが俺に向いているのを教えてくれて、俺自身もアズマ君に対して同じ想いだと、そうだと思ったのに。

「ナツ君は、アズマ君が記憶を失くしたのは自分のせいだって思ってるけど、俺達はそんな事ないと思ってる。」

アキラがティッシュの箱を俺に渡してきて、受け取った。

「ケガしたのはナツ君を庇ったからなんだけど、それだってアズマ君がしようとしてした事じゃん。」

「そもそも、あれって事故だった訳でしょ?ナツ君も被害者みたいなもんじゃん。逆にナツ君がケガしたり記憶失くした方が大変だと思うもん。」

2人は一呼吸置いて顔を見合わせて口を開いた。

「逆だったら、絶対ナツ君より取り乱して仕事になんないよ、あの人。」

あははって笑った2人が楽しそうだ。

「ってゆうか、ナツ君が泣いて安心した。今まで全然普通なんだもん。我慢してるんだとは思ってたけど、2人はもっと深い繋がりだって思ってたからさぁ。」

少し笑ったアキラが立ち上がって楽屋の入り口から顔を出して外を見た。

「ナツ君だってアズマ君の事、大事でしょ?」

アツシが俺に聞いてきた。

アズマ君を……大事?

そうだ、手放したくない。ずっと一緒に居たいって、アズマ君にしがみついてたのは俺なのに。

「今のアズマ君に好きにされちゃってちゃ、駄目だよ!」

アツシが俺のおでこを指で弾いた。

「…………ん、そうだな。」

そう返事した俺は、箱からティッシュを2・3枚取り出して鼻を派手な音を立ててかんだ。

アキラとアツシが「ナツ君アイドルなのに!」って大笑いしてた。



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