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2nd Season
15.晴天と霹靂。


部屋の中は明るくなり始めた朝の色だった。

「い、……痛…い、」

短くそう告げたからといって、与えられる仕打ちが変わる訳ではない。

「うるせぇ、声出すな。」

「ん………、ぅ、」

グチグチと粘着質な音が耳に届く。

軋むベッドの上で、身体を暴かれる。

腰だけを持ち上げられ、ソコだけを使う行為もこれで4回目。

感じる訳じゃないから、痛みや圧迫感を堪える呻き声が口から漏れる。それすら、男を意識させるからか聞きたくないと言うのか。

だったら、しなきゃいいのに。

何度も思う。

それでも、俺を『夏希』と呼んでベッドへと呼ぶ。

それでも、男の俺に突っ込んで、射精する位には気持ちが良いみたいだ。

枕に顔を埋めて、表情も声も全部隠す。きっと情けない顔してる。

早く終わればいいのにと、ただ堪える。

俺は一度も気持ち良くなんかならない。

名前を呼ばれても、逆に冷めてしまう。

俺の体内に熱いのが放たれて、やっと終わったと安堵する。

こんなのが続いたらきっと良くないと思ってるけど、抵抗するのが怖い。

何が怖いのかも、もう分からない。

気がついたら、以前のアズマ君の事を考えないようにしている自分がいた。

俺を好きだった頃のアズマ君の声や表情。

一緒にいて、本当に幸せだったと思ってた頃の色々な出来事や楽しい時間。

それを思い出したり考えたりして、辛い気持ちになるのが分かってるから、思い浮かべないようにしてる。

もう、きっと今のアズマ君のままなんだろうなって、思うんだ。

きっと記憶が戻る事は無いんだ。

だって「思い出したくない」んだ。

そう思ってたら、絶対思い出す事なんて無い筈。

仕事や生活も、思い出した訳じゃなくて、新たに覚えてスタートしているんだ。

もう新しい時間が動き出してるんだ。




「俺の夏用の服って、どこにしまってあるの?」

ベッドから降りたアズマ君が聞いてきた。

「………前の、マンションに。取りに行くつもりだったから。」

引き攣れるような痛みを堪えて、自分もベッドから降りる。

「じゃぁ、今日帰りに一緒に取りに行こうぜ。」

「え……、」

「だって、どこにマンションあるのか、どこにしまってあるのかも分かんねぇって。」

正直言うと、滅茶苦茶行きたくないんだけど、そういう訳にもいかなくて、承諾した。

浴室へと入ってシャワーを浴びる。

酷く抱かれても、ふいにアズマ君を好きだったと思い出しても、涙は出ない。

俺の感情と性欲は、どこかいかれてしまったんじゃないかと錯覚する。

いっそ、ただぶつけられる暴力のような行為に身体が感じる事が出来れば、それだけでも辛くないのにと考える。

そんな事を考えてる自分もどうかと思う。

自分で孔を開いて、吐き出された精液を掻き出す事にも躊躇しなくなった。

精液が残ったままなのも気持ち悪くて、その日の仕事によっては中を洗い流す。体内をシャワーのお湯が巡るような感覚には未だ慣れない。

それでも、俺とアズマ君の時間はそれぞれちゃんと動いてる。

それぞれの行くべき道も着実に進んでいる。

その時間や道が交差して繋がるのを、もう期待しなくなってた。




仕事を終えて、事務所へと送って貰うと、先に仕事が終わったアズマ君が俺を待ってた。

アズマ君のマンションへ夏服を取りに行くのだと、織田さんに説明すると、タクシーチケットをくれた。

「何とか上手く、やってるんだな。」

そう言われた言葉に笑顔を返すと、アズマ君が俺の腕を掴んで「行こうぜ」って笑ってた。

「マンションまでは付いて行けるけど、夏服がどこにあるかなんて、俺知らないよ?」

マンションに着いてエレベーターのボタンを押して、アズマ君にそう言った。

「一緒に探してくれればいいだろ?」

やはり、知らない所へ来たみたいに周りをキョロキョロと見回していた。

部屋の前で、以前俺に見せたキーケースを出して鍵を合わせた。

久しぶりに入るアズマ君の部屋は、懐かしい…アズマ君の匂いがした。

………入っちゃいけない気がした。

俺が躊躇してるのを感じたのか、腕を掴まれて中へ引っ張り込まれた。

靴を脱いでる間に、アズマ君は色んなドアを開けて確認するみたいに部屋中を見てた。

リビングに入ると、テレビやソファやテーブル…大きな家具に白い布が被せてあった。

暫く戻らないつもりだったんだと、前のアズマ君が施した思いに気付く。

「何だ、テレビもベッドもあるんだ。」

「………最初に、そのままだって、言ったじゃん。」

約束では、俺が成人になるまでの間…一緒に住んでくれるという話しだった。

「そんなに追い出そうとすんなよ。まだ色々と不自由なんだってば。」

アズマ君のギブスが取れる前日に、ここへ帰るように勧めた。近い内に出て行くとは言ったものの、中々引越す動きがない。

一体、何が不自由だというのか。

手はもう普通に動くみたいだし、仕事も生活も支障は無いように見える。

このままここに帰れば?……とは切り出せない。

引越す事を促す度、癇に障るのか……俺を使って性欲処理をする。

手軽に好きにできる俺を、手放したくないと思ってくれてるんだろうか。

寝室のクローゼットを開けて、引き出しの中を探って衣類を適当に出した。

「どれがいるの?自分で選んでよ。」

「コレ……前着てたか?」

「ん〜………こっちは、見覚えあるかな。コレは分かんねぇ……。コレは着てたよ。」

服を広げながら思い出して1つずつそう教えた。

「あんまイメージ変わったらマズイだろ?俺がどれを着てたか言ったヤツだけ持ってく。」

「分かった。じゃぁ、この辺かな。」

夏用の服は、俺もあまり見覚えが無い。だって、去年の夏は別れてたから一緒には居なかった。

一緒の仕事の時や、秋口まで着てたっぽい服を紙袋へと入れた。

アズマ君は、寝室のチェストの引き出しを次々と開けて、何かを探してるみたいだった。

リビングに戻った俺は、布が被ったままのソファを眺めた。

『そのソファで嫌がるお前をレイプする夢見た。』

『その夢見て、お前をそういう意味で好きなんだって確信した。』

思い出したらいけないのに、言われた言葉やこのソファでされた事が次々と頭の中に甦る。

早くここから出たい。

「やっぱ、ダメだ。」

いきなり後ろから声を掛けられて、大袈裟に身体を跳ねさせて驚いてしまった。

「全然覚えが無い。ここで生活するとか考えつかねぇし。」

「…………それって、引越さないって事?」

布を捲ってソファに座ったアズマ君が立ってる俺の腕を掴んだ。

「何だよ、そんなに俺と住むの嫌なのかよ。つれねぇヤツ。」

掴まれた腕が、強い力で引かれる。

「や、やだ……離して。」

「いいソファがあるじゃん。ちょっと寛げよ。」

まただ。

俺の知らない目だ。

「まぁ座れって。」

「やだよ、そこは……、」

アズマ君の目を見るのが嫌で顔を背けた。

「ここでも何回かしたんだろ?思い出すかもしんないぜ?」

聞きたくない。

「しようぜ。ズボン脱げよ。」

「やだ、………やだってば!」

掴まれた腕を振りほどけない。全身が震える。

立ち上がったアズマ君が俺の肩と腕を捕まえて、凄い力で引っ張られた。頭をソファの肘掛けにぶつける位の勢いでソファへと投げつけられた。

「ココは、やだ……!お願い、帰ったら何でもするから!」

「そんなお願い聞けるかよ。」

俺の腰に跨ったアズマ君が、シャツの前を破るように開いた。休む事無くその手がウエストのベルトを緩めてチャックやボタンを外しにかかった。

「い、嫌だ、やめてよ!本当にやだ……っ!」

その手を除けようとアズマ君の手を掴み、脚をバタつかせて暴れた。

次の瞬間、頭に衝撃が来た。痛みと霞む視界。

その後にも続けて2回。

殴られた。

「暴れんな。面倒くせぇ。」

こめかみの下、目の横を殴られた。痛みで目が開かない。脳が揺れたのか、くらくらする。

「い、やだ……っ、」

無意識に首を振ってそう告げたら、今度は頬を叩かれた。

薄く目を開けてアズマ君を見上げた。

本当にイライラしてるみたいで、怖くなった。

振り上げた手が、また自分を叩くのかと思ったら、咄嗟に両腕で自分の顔を隠した。

「…………分かった、から……、殴らないで…明日も仕事あるし………。」

震える声でやっとそう告げた。

何でこんな事になったんだろう。

最初にちゃんと抵抗して、身体を繋げなければ良かったのか?

恋人じゃなくてセフレだと思ってるから?

だからって、暴れてる相手を殴りつけてまでしたいって何?

性欲なら……今朝も俺に吐き出したんだから溜まってはいないんじゃねぇの?

思い出したくも無いって……言ったじゃん。

だったら、俺の事なんか早く切り捨ててよ。

力任せに下半身の衣類を脱がされて、脚を開かされた。どこから持って来たのか、コンドームを袋から出して着けてた。

中出しされないんだと、少しだけ安心した。



『ゴムだけじゃ絶対お前を傷付ける。』



初めてこの部屋に来た時、そう言って用意をしていないから、と俺だけを気持ち良くしてくれた。



ずっと、出ないと思ってたものが込み上げてきて、堪え切れなくて目から溢れた。

顔を覆った腕を、涙が溢れる目に押し付けた。

声が出ないように、奥歯をずっと、強く、噛み締めてた。




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あきゅろす。
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