2nd Season
そのままの、俺。
アツシに凭れてスタジオの撮影風景を眺めた。
背後から織田さんが話し掛けてくる。
「テレビ的には、お前の泣き顔とか放送したいだろうけど…NGにするか?」
「………分からないです。織田さんが決めて下さい。」
そう返事したら、頭をぐしゃって撫でられた。
「多分、吾妻が優勝だろうな。お前の泣き顔で得点が上がっただろ。」
笑い声交じりに言って、ディレクターさんの方へと歩いて行った。
「多分さ、ずっとナツ君にカメラ着いてたからどアップで流されちゃうよ?」
俺モニター見てたもん、って、アキラがフフフって静かに笑う。
サビに入った途端俺がボロボロと涙を零し始めたのだと教えてくれた。
「え〜…、俺…格好悪いな。」
短くそう言った俺に、アキラとアツシが「何言ってんの。」って声を合わせる。
「ナツ君の可愛いトコ、公開しちゃったんだからこれから大変だよ?」
「俺達だけの癒し系だったのに、皆の癒し系になっちゃう。」
「それに、テレビでアズマ君にあーんな顔でカッコイイとか言っちゃうし。」
「………俺、どんな顔してた?」
あーんな顔って……。かなりぼんやりしてた気がするし。
アツシから離れて自分の足でしっかりと立ち、2人に向き合った。
「メロメロ〜…って顔。」
マジで……?
な、泣き顔とかより…、そっちの方がNGじゃないのか!?
「やだ、ヤバイじゃん、どうしよう!」
両手で頬を押さえて狼狽する俺にアキラもアツシも溜め息を吐いた。
「今更。」
織田さんの予想した通り、優勝はアズマ君だった。
『皆さん甲乙付け難いものでした。その中でも吾妻君の歌った曲は、オリジナルの山本君を感動させてしまう程の腕前で、私達も文句無しで吾妻君を優勝に決めました。』
狭いステージの上に皆で並んで、その前列の真ん中で審査委員長の作曲家の先生が総評を口にし、アズマ君がトロフィーを受け取る。
『ありがとうございます!』
キラキラの笑顔でお礼を言ったアズマ君。
『この喜びを誰に伝えたいですか?』
『もう聞かなくても分かってる癖に!』
苦笑いしながらアズマ君が司会者の人の肩を手の甲で叩いた。
『じゃぁ、皆で言っちゃいますよ、せーの!』
『ヤマナツ君!』
掛け声と同時に、出演者の皆が口を揃えて俺の名前を呼ぶ。
超…恥ずかしい。
皆に掴まれてアズマ君の隣まで押されて、苦笑い。
『お前の分も頑張るって言っただろ?』
『ハハハ、はい。おめでとう、ございます。』
予め渡されてたマイクで、そうお祝いの言葉を口にする。
『優勝の副賞として、吾妻君はソロの写真集を出して貰えます!』
拍手と歓声に沸くスタジオ。
グループアイドルとして、やはりソロと名の付くものは最大の魅力だ。
『おおおおぉ!』
知らなかった…、そりゃぁ女の子達頑張るよなぁ。
『アズマ君、何勝っちゃってんの?女の子に譲りなよ。俺はアズマ君の裸の写真より女の子達の素晴らしい写真のが見たいよ。』
『…………お前。それマイク入ってんぞ。』
アズマ君が引き攣った顔で俺のマイクを指差した。
え、あ…本当だ。
しかも、心の声を口に出してた事にさえ気付かない俺……。
『や、ヤマナツ君エロキャラ発言です!』
司会者の人が笑いで震えながら俺の肩を叩く。
『ち、違うんです!今凄い無意識に……、』
『無意識にエロ発言してんなよ!しかも俺裸になるのかよ!』
一気に顔が熱くなった俺の肩を組んだアズマ君が、楽しそうに笑う。もちろんスタジオ中も爆笑で……。
余計な事を喋る前にマイクのスイッチを勝手に切った俺。
カメラの奥に居る織田さんは苦笑いしてた。
あぁ……俺、またやらかしてしまいました。
楽屋で着替えて、荷物を纏める。
「山本。」
織田さんに呼び掛けられて頷いて返事をした。
「一応、廊下で待ってるから。」
「いいですよ、大丈夫です。話し終わったら自分で帰れます。」
汚れた衣類を入れた袋をバッグに押し込んだ。
「俺、これからまた撮影だから……帰る前に電話するな。」
アズマ君がそう言って俺の背中を叩いた。
「うん、頑張ってね。」
ちゃんと、笑えてただろうか。
「ナツ君、俺待ってるからさ。一緒に帰ろ?」
「俺も待ってる。ご飯食べて帰ろうよ。」
アキラとアツシがそう言ってくれる。けど、断った。
「大丈夫だってば。もう皆心配症だなぁ。」
これから、『MTAO』の楽屋へ行って宇佐美さんと話をするのだ。その話がいい話し合いである訳が無いのは当たり前なんだ。
「心配くらいさせろよ。」
ヒロ君が長い溜め息を吐いた。
「多分さ、そうやって皆が俺を甘やかすの…も、あの人気に入らないと思うんだよね。」
「甘やかしてなんかいねぇぞ。」
眉を顰めたヒロ君。
「甘やかした覚えねぇもんなぁ?」
ウツミ君も苦笑い。
「まぁ……必要以上に構ってはいるかもしんねぇけど、そりゃ仕方ねぇと思うぞ。」
オオサワ君も荷物を纏めながら笑い声を漏らす。
「構わずには居られないんだもん、ナツ君。」
アキラが歯を見せてイヒヒって笑った。
「普通に構ってんのが甘やかしてるように見えるって事は、見てる方がそうゆう風に色付けて見てるんだよ。」
織田さんが溜め息吐きながら俺の荷物を手に持って楽屋のドアを開けた。
「………ご飯、ラーメン食べたい。」
ドアから出る時に、アキラとアツシに振り返ってそれだけ告げた。2人が指を立てて笑顔を返してくれた。
廊下を歩きながら、織田さんが明日のスケジュールを説明してくれる。
「……織田さん、宇佐美さんの事、」
「知ってたってゆうか、気にしてんなって位にはな。」
皆まで言わずとも返事が返って来る。
「『MTAO』とはあまり番組でバッティングしなかったしな。」
シングルの発売日が近ければ音楽番組で一緒になったりするのに、それが無かった。同じアイドル雑誌に乗っても撮影日も重ならなかったし、一緒にする仕事も今まで無かった。
『MTAO』の楽屋の前に、大島さんと羽鳥さんが立ってた。
軽く頭を下げた大島さんが、中に宇佐美さんとマネージャーが居ると教えてくれた。
「織田さん、他の人脅しちゃダメだよ?」
楽屋のドアのレバーを掴んでから振り返って織田さんに言った。
「ハハ、はいはい。ちゃんと待ってます。」
苦笑いした織田さんに自分の荷物を預けて、ドアを開ける。
椅子に座った宇佐美さんに向かうようにマネージャーさんが腕を組んで立ってて、正に何か叱られてるような様子で。
「……こんにちは。」
そう声を掛けたら、宇佐美さんは下から睨むように俺を見て、マネージャーさんは織田さんを探すようにキョロキョロしてた。
「2人でって話でしたけど。」
何かを言おうとするマネージャーさんに、短くそう言って出てって貰う。
「座れば?」
そう言って指差された椅子は、以外にも宇佐美さんの一番近くの席。
言われるまま椅子に座り、宇佐美さんの着てる服に見覚えがあると思ってつい見つめてしまう。
「俺……その服持ってる。」
「知ってるよ。」
同じブランドのシャツ。ボタンや刺繍に特徴があって、縫製がしっかりしててお気に入りなのだ。
「俺だって、そのTシャツ色違い持ってる。」
俺の着てる服を指差して宇佐美さんが吐き捨てるように言った。
自分の着てる、宇佐美さんが着てる服とは違うメーカーのサックスブルーのロングTシャツを見下ろした。
カブってる……って言ってたのって、
「つぅか、そんなさっきまで泣いてた奴と話にくいんだけど。」
馬鹿にするみたいに鼻で笑う宇佐美さん。
「………俺、高1ん時、テレビでアズマ君見て…ダンス始めました。」
今、アスタリスクの事やアズマ君の事を考えるだけでまた泣きそうだ。
「アスタリスクは、初めて作った曲で………アズマ君をイメージして作った、俺の中では特別な曲で、」
「は?マジでお前が作ったの?ゴーストじゃねぇの?」
………はぁ?そっちこそ何言ってんだよ。
何でわざわざゴーストライター立てるんだよ。だったら俺の名前じゃなくてアズマ君とかの名前にするだろ。
「弾いてるだけかと、思ってた。」
………そっか、世間はそう思ってんだ。
俺みたいな奴が曲なんか作れる訳ないって、どうせプロが作ってんだろって、思われてたんだ。
ちょっと、ショックだ。
「な、何だよお前!」
再びボロボロと涙を零し始めた俺に、宇佐美さんが怪訝そうに声を上げてティッシュを箱ごと俺に向かって投げた。
「水掛けてもコーヒー掛けても泣かなかったくせに、そんな事で泣くなよ!」
あ、認めた。
ティッシュで鼻を噛みながら顔を上げたら、睨みつける目が俺を見てた。
「……やる事が陰湿です。」
堂々と気に入らないならそう言えばいいのに。言われたからって、きっとどうする事も出来ねぇだろうけど。
「嫌がらせされたら、普通に………凹みます。」
精神的にダメージを受けるようなタイプじゃない、と真正面から言われたのも、かなりキタ。
図太い神経の持ち主か、嫌がらせにも気付かない程の鈍感か……。多分後者のイメージを持たれてるんだろうけど。
「凹んで貰わなきゃ、嫌がらせした意味ねぇだろ。」
棘のある、言い方だった。
やはり想像した通りの言葉を浴びせられるんだと、自分の中で覚悟をした。
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