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2nd Season
番組収録。


アイドル歌上手王座決定戦。

アイドルグループに所属する総勢32名が、自分達のグループの持ち歌以外を歌う事をルールに、トーナメント方式で勝ち上っていく。

3回戦までを勝ち抜くと、決勝。

4つのブロックの進出者と決勝戦をして優勝者を決める。

「ナツ君、飛ばし過ぎじゃない?」

1回戦Cブロックの1組目の俺が歌い終わってセットの椅子に座った所でアキラが苦笑いして話しかけてきた。

「俺、ナツ君より先に歌っておいて良かった。」

「何言ってんだよ。」

フフ、って笑ってアキラの肩に自分の肩をぶつけた。

Aブロックのアキラは安定した歌唱力で1回戦突破。ウツミ君は『SPG』のサナエちゃんと当たって負けちゃった。

Bブロックのアズマ君も、難なく勝ち進んだ。

グループアイドルって、大体オーディションで選ばれたり、事務所でレッスンを経てからデビューするから、それなりに皆歌は上手で聴き応えあるんだよね。

俺の歌った曲は、元々3回戦用の曲だったから織田さんが意外性を前面に出した楽曲をと選曲してくれたんだ。

女性アーティストの曲を歌った俺は審査員の人達に高得点を入れて貰って、取り敢えず無事に2回戦へ進める。

先程、挨拶を交わした『MTAO』の宇佐美さんがステージに立った。

生意気な言葉で3回戦まで負けるなと言った俺に、宇佐美さんは「山本君もね。」って返事した表情は…もう笑顔じゃなかった。

宇佐美マコト……さん。

元々俺達と同じ事務所に在籍していたけれど、俺が事務所に入ってデビューした1ヶ月後に、別の事務所に移籍した。

High-Gradeよりも1年半後に『MTAO』としてデビュー。

宇佐美マコト、大島トオル、新見ツヨシ、羽鳥オウタさんの計4人の内、宇佐美さんと大島さんがメインボーカルで新見さんと羽鳥さんがダンスをするグループ。

その宇佐美マコトさんが「花時間の逢瀬」の花岡ミサキ役の候補だったと、昨日織田さんに聞いた。

昨日、違う番組だったけど『MTAO』も同じテレビ局に居た事は知ってた。

「ウサギ君、歌結構ウマいんだよね。」

「ウサギ?」

隣に座ったアキラが、セットの中央で歌い終えた宇佐美さんを指差した。

「宇佐美…でしょ?皆はウサギって呼んでた。確かヒロ君と同い年だったし年上だから俺らはウサギ君って呼んでたけどね。」

「ふぅん。」

心配はしてなかったけど、宇佐美さんも余裕で1回戦を勝ち抜いた。

俺とは離れた位置に座ったアズマ君と目が合ったら、歯を見せて意地悪そうに笑ってた。

歌い終わった宇佐美さんが、そのアズマ君の隣に座って何かを話してる。

2人とも笑顔で、アズマ君は宇佐美さんの頭を軽く殴るようにして…何か仲良さげな雰囲気。

「そう言えば、アズマ君はウサギ君の事マコトって名前で呼んでた。」

「ん?」

「ウサギ君もアズマ君に懐いてたよ。服貰ったとかご飯連れてって貰ったとか自慢されてたもん、俺。」

あ、なんか………。

まさか、って思った事を確信に変えるには抵抗を感じてしまった。

宇佐美さんがアズマ君に向けるその想いは、どうゆう種類のもの?

尊敬?信頼?……親愛?

「あ、アツシだ。」

アキラが笑い声混じりに短く俺に伝え、セットの椅子から立ち上がった。

「アツシー!頑張れ!!」

大きな声を上げてアツシを応援するアキラに皆が注目する。

アツシの隣に立ったヒロ君が吹き出して笑ってる。

「ヒロ君、本気出しちゃ駄目だよー!」

続けてそんな声を上げたアキラにスタジオ中が爆笑。

色んな所から「アツシ負けんな!」とか「アッ君頑張れー!」って皆がアツシを応援。

『………何か、スッゴイやりにくいんだけど。』

マイクごしに、複雑そうに恨めしそうな目でカメラを見るアツシに益々スタジオはアツシの応援に加熱。

「アツシ!アツシ!」

アツシコールに、アツシが顔を真っ赤にした。

『やだ、もう!やめてよー!!ナツ君助けて!』

苦笑いしたアツシが俺に助けを求めてる。カメラが俺とアキラを捕らえ、モニターに写った。

スタッフが渡してくれたマイクを手に持ってアツシに向かって笑顔で励ます。

『アツシ、今日はリズム感持って来た?』

『あ、忘れた!…って、ナツ君一番酷い!!』

笑いで湧いたスタジオの中で、司会者の人が進行を始めた。

「1回戦からメンバー同士で当たるのってキツイね。」

アキラが笑ってる。

「でも、俺ら7人じゃん?SPGはメンバー多いからアレだけど、4人グループでも2人しか歌えないトコもあるもんね。」

そう、MTAOは4人グループなのに2人分しか枠が無い。

「テレビ的には俺らの中から2人くらいは決勝出て当たらせたいのかもね。」

「お、ナツ君。分かってきたね。」

「俺、決勝行ってもイイ?」

「じゃあ、俺は3回戦位で負けとこっかな。」

イシシ、って笑うアキラがステージでスタンバイするヒロ君を見てる。

「アズマ君とナツ君の対決、見てみたいし。」

Aブロックの歌を全部聴いて、大体決勝に残る人物は予想がついた。

「テレビ的にもね。」

膝に肘をついて顎を乗せたアキラが、楽しそうに笑う。

視界の端に、アズマ君と宇佐美さんが映る。

アズマ君と目が合ったら、腕を伸ばして親指を立てて合図してきた。

指で○を作ってアズマ君にサインを返す。

俺の返事にアズマ君が笑った。

その隣の宇佐美さんは、チラリと俺を見るだけ。




アツシが歌い出しから音を大きく外し、これまたテレビ的においしい映像を提供したのは、言うまでも無く……注目(?)の斉藤兄弟対決は兄・ヒロ君に軍配が上がる。



オオサワ君は1回戦で敗退して、2回戦に進んだのはAブロックのアキラとBブロックのアズマ君、Cブロックの俺とDブロックのヒロ君。

2回戦でアキラとヒロ君は負けて、俺とアズマ君は勝ち進む。

3回戦の収録の前に休憩に入る。

3回戦に進む8人には、休憩の間にもカメラがそれぞれ着いて、カメラマンの人がインタビューしてくれたり、オフの顔を撮影してくれる。

「3回戦は何歌うの?」

カメラマンさんが聞いてくる。

「対戦相手の宇佐美さん達『MTAO』の“リアル”です。」

「自信は?」

「どうかな、頑張ります。」

笑顔で短く答える。カメラさんの向こうで『SPG』の宮崎サナエちゃんもインタビュー受けてた。サナエちゃんも3回戦に進む。

「High-GradeはBブロックの吾妻君も3回戦に出るね。」

「はい、アズマ君の3回戦の曲カッコイイですよ。」

この間練習してたのを聴いた。スローバラードで、高音の伸びに注意して練習してた。

いきなり、後ろから肩を組まれた。

「誰がカッコイイって?」

楽しそうに笑ったアズマ君が、カメラのフレームに入った。

「やだなぁ、そうゆうのだけ聞こえるんだよね、アズマ君って。」

「そうだよ、お前は中々俺を褒めねぇだろうが。」

「そんな事………無ぇ、と、思う。」

と、一応口にした後で、そう言えば人前でアズマ君をそうゆう風に賞賛した事は余り無いかな、と考えた。

「俺は結構ヤマナツを絶賛してるぞ?可愛いとか面白いとか身体が軽いとか、空気読めねぇ天然だとか、」

「褒めてねぇじゃん!」

しかも可愛いとか、マジでやめろよ。

「褒めろよ〜、もっとカッコイイって言えよ〜。」

ふざけたように顔を寄せて来たアズマ君に、周りの出演者の人達が笑ってる。

「あ〜、はいはい、カッコイイですよ。」

カメラマンの人も笑ってる。

「アズマ君がカッコイイとかさ、言わなくても知ってるし。」

「お前が俺を褒める事に意味があるだろ。調子に乗らせろよ。」

カメラの向こうの織田さんと高島さんも笑って頷いてる。それは…どうゆう解釈をしたらいいんだ。

カメラをチラっと見てから、アズマ君に向く。

「……カッコイイ、アズマ君が、見たいから…3回戦頑張ってね。」

ん?ちょっと微妙な言い方、だったかな。

「次、勝ったら決勝だな。」

いつもの自信満々なアズマ君の笑顔。

「そうだね。」

「お前も、勝てよ。」

「………うん。」

「まぁ、優勝は無理でも得点の高い方が勝ちな。」

「はぁ!?」

「負けた方は、勝った方の言う事を聞く。」

「ちょ、待っ……!」

「はい、だろ?」

カメラも回ってて、周りにマネージャーやメンバー、他の出演者やスタッフがたくさんいるのに、真っ直ぐに目を見つめられて話を進められて、

「…………はい。」

不本意ながらそう返事をしたら、周りから拍手が起こる。

ってゆうか、まだ決勝でもないのに…勝手に俺らだけでこんな事で盛り上がるってどうなんだよ。

「負けられなくなっちゃったね。」

アズマ君が離れてから、カメラマンの人が笑いながらそう言った。

「はい、絶対負けたくないです。」

「え?アズマ君ってそんな無茶な事命令したりすんの?」

興味深そうにカメラマンの人が聞いてくる。

「そう、俺様なんですよ。」

そう言って、カメラに向かってアズマ君の真似して意地悪そうに笑ってみた。




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