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2nd Season
本日のお仕事。


俺の隣に吾妻君が座る。

後ろの席に5人が座る。

吾妻君の向こう隣には女性アーティストの人、その向こうには女の子アイドルグループ『SPG』の子達。

音楽番組の収録が始まり、俺達の出番は最後で大人しく席に座ってる。

でも、前に座った俺とアズマ君にはマイクを渡されてるから、いつ話を振られるか分からないからしっかりと準備してないといけない。

撮影の合間に、ドラマの撮影で一緒になった三浦優花ちゃんが離れた席から手を振ってくれた。

振り返したら、何かのジェスチャーをしてたけど意味が分からなくて首を傾げたら、優花ちゃんの周りの女の子達が楽しそうに笑った。

「何か、俺笑われてる?」

隣に居るアズマ君にこっそり聞いたら、少し苦笑いして「ピースしとけ。」って言われた。言われるままピースをして優花ちゃんを見たら、優花ちゃんもピースしてた。

何だったんだろ。

「てゆうか、お前の席…あっちじゃねぇのか?」

からかうように笑ったアズマ君が優花ちゃん達の席を指した。

優花ちゃんのグループ『SPG』は総勢40人以上のメンバーを抱えてて、その中から選抜メンバー15人位がテレビに出演する。

「……俺が優花ちゃん達のグループだったら、きっと選抜漏れだよ。」

そうゆうグループだからこそ、優花ちゃんトコのグループは皆向上心が強い子が集まってるんだって思う。

芸能人になる人っていうのは、この場所を求めてたくさんの努力をして、僅かなチャンスを掴んで来てるんだ。

テレビに出られたとか、CDを出せたからってそれがゴールじゃなくてスタート地点で、そこに居続ける為に皆必死なんだ。

俺達みたいなアイドルっていうのは特にそうだと思う。

………俺に嫌がらせをしてくるのは、同じアイドルだろうか。

さっき背中を押された時の力とか衣類ごしの手の感触とか、何となくだけど大きな体格では無い気がしてきた。

俺に嫌がらせをしても、俺だけを貶めても意味がないと思う。俺はHigh-Gradeってグループの一員だから。

どうやらHigh-Gradeのメンバーの中で俺だけしか嫌がらせを受けていない。

きっと、個人的に俺が気に入らないんだろう。

相手にしなければその内飽きるだろうと思ってたけど、今日の攻撃は一気にエスカレートしたものだった。

「あん中で誰が可愛いと思う?」

隣のアズマ君が俺の耳にこっそりとそう話し掛けてきた。

優花ちゃんみたいに前に座ってる子はやっぱり人気のある子で、40人以上の中から選りすぐってそこにいる訳だから、皆それなりに可愛いのだけど。

「後ろの右端の子。」

アズマ君の耳に手を添えて俺もこっそりと耳打ちするように話す。

「え、あのストレートの子?」

後ろの段違いの椅子に座った中で右端のストレートのロングヘアでサイドの髪を後ろで結んでる丸顔の子。

名前は分からない。

「アズマ君は?」

「ん〜……あのショートの子かな。エロそうな口してるよな。」

あの子は知ってる。優花ちゃんといつも一緒にいるサナエちゃん。

つか、エロそうって。アズマ君ってセクシー系が好きなのかな。可愛いタイプが好きなのかと思ってた。

ミュウちゃんもこの間テレビ局で見た元カノも持ってたAVの女優も、みーんな可愛い系だったくせに。

「お前の口に似てる。」

笑うような声でまた耳にそう告げてきたアズマ君の言葉に、思わず自分の口を押さえてアズマ君に顔を向けてしまった。

俺の口に…似てるって事は、俺の口もエロそうって事?嘘だ、そんなの言われた事無ぇし!

気が付いたら、後ろに座ってた皆もアズマ君の向こうの女の人も優花ちゃん達も皆…俺を見てた。

「聞こえた?」

つい皆にそう聞いてしまった俺に、皆が一斉に笑い出した。

「内緒話が聞こえる訳ないじゃん。」

「ナツ君のリアクションが面白いから見てるんだよ。」

「アズマが変な事言ったんだろ。」

アキラとアツシとウツミ君が続けて言った。

「ヤマナツがどの子が好みだって聞いてきたから、」

「俺かよ!アズマ君が先に聞いてきたんじゃん!」

飄々とした口ぶりで言ったアズマ君についツッコミを入れてしまった。

「えー、誰が好みなの?教えて?」

アズマ君の向こう隣の女の人が楽しそうに笑って聞いて来た。

さっき俺が可愛いって言った子もニコニコ笑ってこっちを見てる。

「言えません……。」

「てゆうか!今、誰か何となく分かっちゃったんだけど!」

優花ちゃんが笑いながらそう声を上げたら、皆がうんうんって頷いてた。

「え!?嘘、何で??」

「じゃぁ皆でいっせーので指差そうか。」

慌てる俺に構わず、女の子達とHigh-Gradeの皆が声を合わせて「いっせーの」って口にした。

右端の女の子を皆が指差した。

指を差された女の子も笑って顔を手で押さえてた。

「え!…っ、てか、何で?」

「言えませんって言っといてあの子見てたらバレバレだろ。」

呆れたようにアズマ君が俺の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。

俺って、本当…どんだけ………。

久々に自分の行動に呆れてしまった……。



撮影が終わって楽屋に戻る廊下の途中で、優花ちゃんと同じグループの女の子達に呼び止められた。

「ヤマナツ君の推しメンちゃんのモエナちゃんだよ。」

ニコニコと笑顔が眩しい優花ちゃん……。

「推し…メン?」

「たくさんメンバーがいるから、その中からファンの人がイチオシのメンバーを推しメンって呼んでるの。」

モエナちゃんと呼ばれた、俺の好みの女の子がそう説明してくれた。

「実は〜、優花ちゃんからヤマナツ君の写メ貰ってるんです。」

楽しそうに自分の携帯電話を両手で持ったモエナちゃんが、携帯に俺の写真が入ってるのだと教えてくれた。

優花ちゃんと撮った写真って言ったら…もう確実に俺は俺じゃない格好のものしかないと思うんだけど。

「え、見して!」

俺の隣に居たアキラがそう声を上げた。

チラ、と俺を見たモエナちゃんと優花ちゃん。

「……いいよ。」

小さく苦笑いした俺の返事を待って、モエナちゃんが携帯電話を開いた。

案の定、女子高ドラマの制服衣装を着た俺と優花ちゃん。

「後、コレ。」

クランクアップの日に女の子浴衣を着た、夏のあの日の写真。

「何、コレ!知らない!」

「知ってる訳ないじゃん、内緒で着たんだから。」

モエナちゃんの携帯電話を覗いて声を上げたアキラに呆れたようにそう言ったら、顔を上げたアキラが俺に向かって指を差した。

「浴衣着てんのもそうだけど、何でアズマ君と写ってんの?」

「それは、」

アズマ君が迎えに来てくれて、この後アズマ君と夜店に行ったからで。

「この写真だったら、共演したコ達皆撮ってたよ?」

優花ちゃんがアキラに向かってそう話すと、アキラが俺に何か言いたげに見つめてきた。

「あ、あのさ、……アズマ君が、写メってたから、貰ったら?」

「うん、そうする。」

そのやり取りを聞いて見てた優花ちゃん達がおかしそうにずっと笑ってた。

「ヤマナツ君さ、私達の楽屋にちょっと来ない?」

え、何で。

優花ちゃんが両手を顔の前で組んで首を傾げた。

「同じ衣装着て写メ撮らせて?」

「イヤです。」

我ながら瞬速な返答だった。

可愛い。優花ちゃんのそんな素振りもその衣装も可愛いけどそれはヤダ!

アキラは俺の隣で笑いを堪えてる。

「サナエと同じ位の身長だしサナエの衣装着てさ、皆で同じポーズでさ、」

甘えるようにそう窺ってくる優花ちゃん。俺より年上だけど、人気のある女の子で超可愛いけど、無理。

俺が演じたのが、女装する男子の役だったとはいえ、男の俺を女の子達ばかりの楽屋へ誘うのもどうかと思う。

俺……男だと思われてねぇのかな。

「あの、ですね。」

今着てる自分の衣装のニットの裾に手を入れた。

「女の子の格好は、お仕事だから着ました。浴衣は…まだドラマの余韻が残ってたから着ちゃいましたけど、仕事でもないのに男の俺が頼まれたからってその衣装を着るようだったら、変だと思いませんか?」

「うん、変だね。」

「はい、変です。スミマセン、ノリが悪くて。」

「ううん、こっちこそ調子に乗っちゃった。ごめんなさい。」

「サナエちゃんだって、自分の衣装を男に着られたら嫌がる筈です。」

「あ、そういえば…サナエ居ないね。」

きょとん、とした優花ちゃんがキョロキョロと辺りを見回してる。

「サナエちゃんて、」

モエナちゃんが口に出し掛けて俺をチラリと見た。

優花ちゃんも口に手をあてて「あ。」って一言だけ漏らした。

「じゃぁ、お疲れさまでした!ヤマナツ君またね!」

女の子達が頭を下げて優花ちゃんは手を振って。

「……お疲れさまでーす。」

力無い声でアキラと声を合わせてそう返す。

「さ、俺らも着替えよ。」

アキラが踵を返してキビキビと歩き出そうとした。

腕を捕まえて「アキラ。」って名前を呼んだ。

「……何か、知ってるんだろ。」

「うん、でも。」

「何でもいいから話せ。」

「ナツ君の女子高ドラマのミサキちゃん役、そのサナエちゃんがやる筈だったんだって。」

目の前の色が一瞬、無くなった感じがした。

それ位、……衝撃を受けたんだ。



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