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2nd Season
3.春雨前線。


目を開けているつもりはないのに、視界が青い。

眩しい明かりを瞼ごしに見ているのかな。

眩しい……青い……光。

いや、眩しくはない。暗いんだ。暗くて深い蒼だ。




「………、また、」

目をそっと開けた。

まだ薄暗い。

何の夢かよく覚えていないけど、きっと良い夢ではない。

だって、またこんなに汗をかいている。

時計を確認しないでそっとベッドから降りた。

そっとドアを開けて部屋を出ると昨日と同じ足取りで浴室に向かう。

暖かいお湯を頭から被る。

「…………はぁ。」

頬や顎を流れ落ちるお湯を感じながら短く溜め息をついた。

前髪を掻き上げて顔にシャワーを浴びる。

昨日だけじゃない、前にもこんな夢を見た気がする。

いつだったっけ。

暫くの間、身動きしないでただお湯に打たれてた。

ゆっくりした動きでシャワーを止めると、浴室のドアを開けてタオルを掴んだ。

頭を適当に拭いた後、顔に濡れたタオルをあてたまま、また暫く考えた。

思い出せない。何だっけ、こういうの。デジャブ?

そういうのとは違う気がするんだけど。

長袖Tシャツとハーフパンツを着て、そっと洗面所のドアを開けた。

昨日の夜も、アズマ君は遅かったみたいだからまた自分の部屋で寝た。

あまり寝なくても平気な体質だと言っていたけど、寝た方がいいに決まってる。その少ない睡眠時間を俺が妨げたくないし。

パーカーに袖を通しながらキッチンへと向かうと、冷蔵庫を開けた。

今日は何にしようかな。卵をマヨネーズで和えたやつ食べたいな。こってりしたやつ。

パントリーからツナの缶詰とミックスパウダーを出した。

ボールに粉を入れて塩と水を少しずつ混ぜた。

鍋に卵と水を入れてクッキングヒーターに乗せた。

冷蔵庫からレタスときゅうりとトマトを出した。

きゅうりとトマトは洗ってスライス。レタスも洗ってちぎった。

ツナ缶を空けると油を切ってお皿に出した。

卵の鍋が沸騰したから弱火にしてタイマーを8分にセット。

先程混ぜたボールの中身をおたまに軽く1杯ずつフライパンに流して焼いた。

どんどん焼いた。直径10p位のパンケーキが全部で12枚出来た。

卵の殻を剥いてマッシャーで潰してマヨネーズと塩コショウを混ぜた。1口つまみ食いしたら、おいしくて思わず声が出た。

「うま。」

「俺も食いたい。」

いきなり後ろからそう声を掛けられてびっくりして振り返った。

ジャージ姿のままのアズマ君がキッチンの入り口に凭れ掛かってこっちを見てた。

「いつから居たの?気がつかなかった。」

「だって夢中で作ってんだもん、声掛けにくくて。」

フフって笑いながら近付いてきたアズマ君が「おはよう」って言って頭を寄せられてキスされた。

「……マヨネーズの味がする。」

唇を舐めながら、アズマ君がまた笑った。

「つまみ食いしたからね。今日パンケーキサンドにしようと思って。」

ダイニングテーブルに皿に盛り付けたパンケーキとトッピングの具を並べた。

コーヒーメーカーをセットしてスイッチを入れると、食器棚からマグカップを出した。

「………どうしたんだ?また早起きして。」

「アズマ君だって早いじゃん。」

笑いながらそう答えると、アズマ君は頭を掻きながら椅子に座った。

「何でも無いよ。目が覚めただけ。」

冷蔵庫から牛乳を出して、自分のマグカップに半分注いだ。

「目が覚めただけでシャワー浴びるのか?」

「ん?……うん、ちょっと汗かいてね。」

夏場ならともかく、まだ朝晩涼しいこの時期に、昨日と今日続けて寝汗をかくなんて、確かにちょっと不自然だけど。

「変な夢見たのか?」

「うん。」

誤魔化さない。下手に誤魔化したらアズマ君を心配させるだけ。

「どんな夢かは忘れちゃって覚えてねぇんだけど。」

電子レンジに牛乳を半分入れたマグカップを入れてボタンを押した。

香ばしく立ち昇る珈琲の香りが心地良い。アズマ君のカップにコーヒーを注いで、レンジから取り出した自分のカップにも注いでカフェオレにする。

「これ、パンケーキに乗っけて食べて。オープンサンドでも挟んでもいいよ。」

「ふぅん。おすすめは?」

「俺は卵マヨとトマト。ツナとレタスも定番かな。」

2人で食卓を囲んで、口の端についたマヨネーズをお互いに指で拭ったり、そんな何でもない暖かい時間が過ごせるだけで、俺は本当に幸せ。



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あきゅろす。
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