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2nd Season
新たな。


一瞬、何が起きたのか分からなかった。

ポタポタと自分から滴り落ちる水滴を見て、

「あ、水か。」

なんて声が口から出た。

ってゆうか、いくら何でもこれは無いだろう。

この服濡らされたら、俺…どうやって帰るんだよ。

肩に掛けてたバッグを掴み、中が濡れてないか確認する。

つぅか、普通に…

「寒っ、」

今は1月で、建物の中って言っても、季節は冬で。

それを不意をついて、頭から水掛けるって。



去年の秋位から、何か自分の周りで何かおかしな事が起こっているなとは思っていた。

楽屋の張り紙が収録終えたら無くなってたりとか、用意された衣装が汚れてたりとか、些細な事から結構焦るような事とかまで、色々と。

10月半ばに、収録終えて楽屋に帰る前にトイレ行ったら……水を被せられた。

その後ひいてた風邪をこじらせて熱を出してしまったっけ。………アズマ君の誕生日の時だった。

嫌味を言われたり、からかわれたりなんてのは今迄も何度かあった。

それの延長だと思ってた。

びしょ濡れにされた直後は、織田さんも注意してくれて暫く何も無かったのに。油断した。

「はぁ〜……、」

どうしよ。

今日はHigh-Gradeの仕事だから、メンバーの誰かに見つかる前に織田さんに、

「ナツ君?わ、何!」

………見つかった。

「どうしたの!?早く拭かないと!」

大きな声を上げるアキラに、唇の前に指をあてて「静かに」とジェスチャーした。

「……シー、とかじゃないよ。もう。」

「ん、ごめん。助かった。」

鞄からタオルを出して頭から被った。鞄をアキラに持って貰い、上着を脱いだ。

シャツまで濡れてる。超寒い。

「誰かに背中、押されて……。そしたら頭からザブンて。」

「誰かって。」

「分かんね。モップとかあるかな。」

「……ナツ君さぁ、」

「だって、このままじゃ局の人が困るだろ?」

水浸しになった床を見下ろすアキラが溜め息吐いてた。

「モップ探してくる。でも、アズマ君に言うからね。」

「はいはい。」

頭を拭きながらアキラにそう返事した。

アズマ君にって、何だよそれ。

確かにアズマ君には今までの事も話してないけどさ。

プラスチックのバケツが転がってる。綺麗な水かどうか分かんないけど、泥水とかじゃなかっただけまだマシだ。

モップを持ってきたアキラが床を拭いてくれた。

鞄の中の携帯が鳴ってる。表示を見たら織田さんだった。

「もしもし。」

『まだ着いてないのか?』

「着いてます。アキラと一緒です。」

『楽屋分かるか?』

織田さんと短く会話をしてると、横からアキラが俺の携帯電話を掴んだ。

「織田さん!ナツ君びしょ濡れなんだけど!」

ば、バカ!

「………うん、分からないって。……はぁい。」

携帯を俺に差し出したアキラ。

「……もしもし、」

『ケガは無いか?』

「ありません。」

『もう、隠せないぞ。そのまま楽屋来い。』

「……はい。」

去年までの嫌がらせは、1人の仕事の時で収録や撮影が終わった後だった。

エスカレートして収録前なんかになって来たらマズイなって、織田さんと話してた。

何より、皆に知られるのを俺も織田さんも心配していた。

以前、俺がからかわれていた時期にメンバーの皆が音楽番組の生放送中に妙な作戦を実行し、事務所からお叱りを受けた。

「てゆうか、その格好になったらもう誤魔化せないでしょ。」

俺を指差したアキラが不機嫌そうな顔で言った。

「そりゃ、そうだけど……雨が降ってきた…とか。」

「ナツ君、アホでしょ。」

………アホって。



楽屋に到着すると皆揃ってて、それで織田さんが「まだ着いてないのか」って電話してきたんだと分かった。

妙に静かな楽屋内で、織田さんの声だけが響く。

「シャツも濡れてるじゃないか、早く着替えろ。」

用意されてる衣装を渡されて、濡れた上着を受け取った織田さんがハンガーに掛けてた。

「着替え、買ってきて貰うからな。ボトムは?」

「平気…です。」

「頭、ちゃんと拭いたら乾かすんだぞ。」

メイクカウンターに置かれたドライヤーを指差した織田さんに頷いて返事した。

「ヤマナツ。」

アズマ君が椅子から立ち上がって手招きする。

「いいよ、自分でする。」

「いいから。」

ドライヤーを手に持ったアズマ君が鏡の前の椅子に座れと促す。

衣装の白いニットを頭から被って袖に腕を通してアズマ君に近寄った。

「…ったく。」

「……ごめん。」

「本当だ、バカ。」

こんな事になってるのを黙ってた事を謝った。

「油断してたんだろ。」

「うん、そう。」

相手の顔も姿も確認出来なかった。背中を押される程まで相手は俺に近付いていたのに。

「きっと続けて来るぞ、気を付けろよ。」

「分かった。」

ドライヤーの暖かい風が俺の髪の毛を撫でる。アズマ君の指が俺の頭を掻き混ぜる。

片目を瞑って鏡越しに皆を見る。

「多分、同じ人だと思うから、」

皆に聞こえるように、そう告げる。

「自分で、解決するから。」

ブラシを持ったアズマ君が俺の髪を梳かしながらブロウしてくれる。

こんな嫌がらせで、挫ける俺じゃない。

こんな些細な事で、皆に助けを借りる程俺は弱くない。

自分の問題を、自分で片付ける。

そう皆に宣言した。




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あきゅろす。
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