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2nd Season
団欒。


卓上IHヒーターの上に載せられた鍋。その横に野菜の入ったバットと買って来たままの豚肉。

「熱燗にする?」

「キムチ鍋なら、やっぱビールかな。」

「あ、俺持ってくる。」

席を立った俺が冷蔵庫から缶ビールを取り出す。

オレンジ色の鍋のスープの中にもやしと豚肉を入れたヤマナツ。

「ガッツリ食ってね。」

俺が先程練り上げた肉団子のタネをスプーンで掬って鍋に放る。

「ニラ好き。たくさん入れて。」

春馬さんが箸でニラを差し、缶を開けてビールをグラスに注ぐ。

「はい。」

俺に向かって缶を傾ける。

「あ、どうも。」

グラスを差し出してビールを注いでもらう。

「肉団子以外はもう食えるよ。」

「はい、じゃあ。いただきます。」

春馬さんが手を合わせて言った。

「いただきます。」

俺も手を合わせて言うと、ヤマナツが俺を見て笑った。

「はい、どうぞ。」

コン、とグラスを置いた春馬さん。中身が空っぽだった。

鍋からどんどんお皿に具を取り、次から次へと口へ入れる春馬さん。

「美味い、丁度いい辛さだな。」

「そう?キムチと唐辛子足そうと思って置いてあるけど。」

「吾妻君どう?もっと辛くても俺はいいけど。」

「まだ食ってません……。」

だって、俺の皿には豆腐と野菜しか入れてない。熱そうだし。

湯気の向こうの春馬さんとヤマナツが2人して俺を見てる。

「シメはね、ラーメンだから。」

「了解。」

ヤマナツが告げた言葉に返事した。豚肉を摘んで自分の皿に入れる。

「もっと辛くてもいいかな、野菜入れたら薄くなるだろ。」

そう言ってニラを口に入れた。

「そうだね。こん位?」

「もちょっと。」

「………っし、オッケ?」

「ん。」

肉団子を摘んだヤマナツが俺の皿へと入れた。

俺が練った肉団子。

「味見して。」

「熱いだろ。」

「熱かったらビール飲めばいいじゃん。」

「鬼か!」

俺達の会話を聞いてた春馬さんが吹き出して笑った。

新しいビールの缶を開けた春馬さんがグラスに注ぐ。

「さっきさ、一緒に台所で鍋の準備してただろ?」

笑いながら、鍋から肉や野菜を取る春馬さんが話す。

「こっそり帰ってきたつもりもないんだけどさ、何か2人の話し声が聞こえたから静かに入って来た。」

箸を皿に置いて、グラスを手に持った春馬さん。

「もっと面白い話が聞けると思ったのに、意外に普通だった。」

「何言ってんだよ。」

呆れたように自分の父親を見るヤマナツ。

さっきのエロオヤジ発言をこっそりと耳に告げといて良かった…と胸を撫で下ろす。

「きのこの話は実に興味深かったけどね。」

「アハハ。」

春馬さんの言葉に笑い返すヤマナツ。嫌な予感。

「アズマ君さ、俺の松茸食っただろとか言うんだよ?」

い、……言っちゃうのかよ!やっぱり!

「ハハハ、やっぱそれお約束発言なんだ。」

それを笑い話みたいに軽く受ける春馬さんもどうなんだ!

何だ、この親子。

オープンとか、オープン過ぎるとかいうレベルじゃない。

これは一種のセクハラだ!

恥ずかしいのと照れくさいのと、情けないのが押し寄せる。

箸を置いた俺がテーブルに肘をついて両手で顔を覆った。

「もうやだ、この親子…。」

そう呟いた俺に、春馬さんが笑いながら言う。

「何か吾妻君って、可愛いね。」

…………からかわれてるんだろうか、俺。

覆った手の指の合間から、テーブルの向かいに座った親子を見る。

「でしょ、アズマ君可愛いんだ。」

麦茶の入ったグラスを口に付けながらヤマナツが春馬さんに向かって楽しそうに笑って言う。

「俺の、だからね。」

「はいはい。」

………本当に、何だろうこの親子。





用意した材料の全てを平らげ、シメのラーメンを待つ俺と春馬さん。

キッチンへと向かったヤマナツを待つほんの少しの間だった。

春馬さんが缶に残ったビールを俺のグラスに注いでくれながら「夏希さ、」って内緒話をするように小声で話し掛けてきた。

「なにかやり遂げたみたいな事あったの?」

「?」

缶を振って最後の一滴までをグラスに落とす春馬さんが笑うように話す。

「浮かれてんなぁ、って思って。」

さすが父親、そうゆうの分かるんだ。

「そうゆう時って、やる事が大胆になるんだよね、夏希。」

フフ、っと笑って自分のグラスのビールを2口飲んだ春馬さんが独り言のように呟く。

「夏希があんな台詞で吾妻君を誘うとは思わなかったけどね。」

………あんな台詞って、………どの台詞だ。

昨晩(といっても今日の事だが)の出来事が頭に浮かび冷や汗が出た気がした。

「我が侭、言っても甘やかしちゃ駄目だよ?」

「いえ、あの、はい。」

またまた微妙な返事をしてしまう俺。

昨晩の可愛く俺を誘ったおねだりヤマナツが、ここ数日の一仕事を終えた充実感から来る、浮かれた気分から生まれた大胆ヤマナツだったのだと、恋人の父親から教えられた……。

嫉妬なんかしても無駄だ。

この人には敵わねぇや。

「はい出来たよ。」

鍋を持ってきたヤマナツがテーブルに置いた。

ラーメンと卵の落とされた鍋のシメ。

「美味そう。」

俺と春馬さんが同時に声を上げる。

箸とお玉でお皿へとよそうヤマナツに自分のお皿を渡す。

「ネギ入れる?」

「おう、多目に。」

刻んだネギをパラリと掛けてくれて俺にお皿を寄越す。

「俺もネギ多目で。」

春馬さんがヤマナツにそう頼んでた。

「コレね、インスタントラーメンの乾麺なんだ。」

「へぇ。」

「今日スーパーでおばちゃん達に教えて貰ったんだ。」

ぶっ、

またまた同時に俺と春馬さんが吹き出した。

「夏希、お前アイドルなんだからさ。」

眉を顰めた春馬さんがヤマナツを嗜める。

「ヤマナツは、おばちゃん達のアイドルでもあるんですよ、な。」

箸でラーメンを摘んでそう言ってやると、ヤマナツが笑った。

「ん、美味い。おばちゃん凄ぇな!」

何だ、このスープの染み込んだ麺の絶妙な硬さ。

「本当だ、美味いな。」

ズルズルと麺を啜る男3人。

「辛い鍋にはこの乾麺がいいって教えてくれたんだ。」

ヤマナツが卵の黄身を潰して混ぜてた。

あぁそれも美味そうだな。

「そう言えば、夏希。お正月は休めるのか?」

「ううん。夕方から仕事だから、午前中にはじいちゃん所に顔出そうと思ってたけど。」

年末の仕事はクリスマスコンサートに始まりテレビの出演やイベントに参加。

年始の仕事は1月1日の夜の生中継バラエティの出演。その翌日は沖縄で事務所のイベントがあって1日の夜から移動。3日からはコンサートもあって休みは1日の夕方まで。

「吾妻君も同じ?」

「そうです。」

「じゃぁ、一緒に行ってやってくれる?」

え、山本の家へ?

「俺はさすがに無理だし、吾妻君に用事が無ければ。」

でも、それこそ家族が集まる大事な日に……俺が着いてってもいいのだろうか?

「お年玉、貰えるかもよ?」

イヒヒ、と悪戯っこのような笑顔でヤマナツが言った。

「俺今年行けなかったからさ。来年は顔出さないとね。」

箸を咥えたヤマナツが「一緒に行こうよ。」って笑顔で誘ってくれる。

「吾妻君も一緒だったら、きっと母さんも父さんも、喜ぶから。」

その言葉の意味を考える間も無く、取り敢えず頷いて返事をした。

「俺が、息子が2人居るみたいだって…感じたのをさ、あの人達にも孫が2人ってのを感じて貰いたいんだ。」

「………行きます。絶対。」

そんな風に言われたら、遠慮なんて理由で行かない訳にはいかない。

「吾妻君が里帰りする時は、夏希連れてっちゃっていいよ。」

笑いながらタバコに火を点けた春馬さんに、ヤマナツが灰皿を渡してた。

「俺が着いてったら変でしょ。」

「何で。」

「アズマ君の家族には、俺は……何て自己紹介すればいいんだよ。」

困ったような顔で鍋に箸を伸ばしたヤマナツ。

「友達ですとか、仕事仲間ですって、言うの?」

ん〜…、確かにいきなり恋人ですってのはどうかな。男の恋人を家族に紹介って、ある意味カミングアウトだ。

「面倒見て貰ってます、って言えば?」

煙をフゥと吹き出した春馬さんが言う。

「実際、吾妻君の方が年上で夏希は面倒見て貰ってるだろ?仕事でもここの生活でも。」

「面倒見て貰ってる男が、里帰りにまで着いてくるってさぁ、普通におかしいよ。」

呆れたように言ったヤマナツが、お皿のラーメンを口に運ぶ。

俺も箸を鍋に伸ばし、鍋に残った全部の麺を皿に取り、スープをお玉で掬った。

「俺がさ、静岡帰るような時は、………着いて来てよ。」

帰る予定も、つもりも今はサラサラ無いけど。

もし実家へ帰るような時は、それはやっぱり1人じゃないと俺も思う。

「…………うん。」

小さく返事をしたヤマナツが、隣の春馬さんを意識して横を見ないようにしてる。

春馬さんは、笑いながらタバコを咥えたまま肘でヤマナツを突いてた。

俺は、ヤマナツの恋人で……、春馬さんはヤマナツの父親で。

俺と春馬さんは、ヤマナツという存在で繋がる。

春馬さんとヤマナツの強い繋がりには到底敵わない。

けれど、俺と春馬さんの繋がりも、家族と言う種類のモノに変わったらいいのにと、純粋に思った。



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あきゅろす。
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