2nd Season
2.晴れのち曇り。
アズマ君が出掛けてから数時間後、俺もマンションを出て、迎えに来てくれてた織田さんの車に乗った。
「テレビ見たか?」
「………何の、ですか?」
俺の顔を見た後、サイドブレーキを外して車を動かしながら、続けて聞かれた。
「新聞は?スポーツ新聞。」
「どれも取ってないです。親父居ないし。何か載ってました?」
何か、変なニュースでもあったのかな。スポーツ新聞って事は芸能ニュース系?
「吾妻がな。」
一言だけそう言った織田さんが前を見たまま溜め息をついた。
「まぁ吾妻はお前と…なんだし、ガセだろうけど。」
その言葉でアズマ君のスキャンダルな記事が載ったのだと理解した。
「……相手の、人って、」
「櫻田ユミ。女優の……去年のドラマで共演した。」
何か、大人っぽい人だったよな。凛とした感じでキャリアウーマンみたいなできる女系の役が多かったような。
去年アズマ君が出演したドラマでは会社経営する女社長の役で、アズマ君はホストの役だった。
朝……アズマ君の携帯に電話が掛かってきたのって、その事だったんだ。
俺には何も教えてくれなかったけど。
何で教えてくれなかったのかな。
胸が痛いというより、穴ができたような何も無くなった様な感じがした。
1人の仕事・雑誌の撮影と取材を終えて、High-Gradeの新番組の収録の為にテレビ局に向かうと、既に皆が楽屋に集まっていた。
アズマ君も居たけど「お疲れ」って声を掛け合っただけで、離れて座った。
衣装に着替えたアズマ君が、織田さんと一緒に先に楽屋を出て行った。
「囲みするんだって。」
ヒロ君が俺に向いてそう教えてくれた。
『囲み』とは囲み取材の事で、会見場所とかを設置しないで、廊下やロビー等でマスコミのインタビュアーの人達がタレントを囲んで取材する。
「明日の朝には放送されるんだろうね、きっと。」
アキラが携帯をいじりながらそう言った。
「てゆうか、無しでしょ。100%ガセでしょ。」
アツシが笑いながらスナック菓子の袋に手を突っ込んでた。
「一緒に居る所撮られた訳じゃないしな。」
ウツミ君が髪型をセットしながら鏡ごしに俺を見た。
そういえば、まだ見てないや。どんな記事だったんだろ。
「櫻田ユミ側も完全否定だもんな。」
オオサワ君が笑いながら鞄をゴソゴソと探った。
「見るか?」
オオサワ君が細く畳んだ新聞を俺に差し出した。
「山本!」
受け取ろうと手を伸ばしたら、楽屋のドアが開いて織田さんが俺を呼んだ。
「……ったく、お前らはもう!!」
いきなり大声で呆れたように織田さんが俺の方へと歩いてきた。
「お前、何か隠してないか?」
「…………え、何も、無いですよ。今は。」
周りの皆も俺を見てる。集中する視線に耐えられなくてパーカーのフードを掴んで頬を隠した。
「とにかく着替えろ!お前も取材を受けるんだ!」
用意された衣装をハンガーごと渡され、言われるまま着替えた。
「何かしたんでしょ、ナツ君。」
アツシが伺うように机に頭を乗せて上目遣いで俺に聞いてきた。
「………何だろ、どれの事かな。」
俺がそう呟いたら、皆が吹き出して笑った。
だって、何かって色々後ろめたい事はかなりしてると思う。……アズマ君とだけど。
「いつからなんだ?吾妻と一緒に住んでるんだろ。」
「え、3月から……何日だっけ。」
「えぇえ!!」
織田さんが聞いてきた質問に思い出しながら答えたら、周りの皆が大きい声を上げた。
「何でそんな事になってんだ?」
「いつ引っ越したの?」
何で?アイドルタレント同士が一緒に住むのって駄目なの?
「ダメ……ですか?」
急に不安になって衣装のボタンをはめる手が止まってしまった。
「や………ダメでは、ないけど、」
ウツミ君が頭を掻きながら苦笑いしてた。
「何か問題ありましたか?俺、何も知らなくて……スミマセン。」
そっか、俺の知らない何かがあるんだ。
頭を下げて織田さんに謝った。けど、そのまま顔を上げられない。
知らない事だらけで、皆に迷惑ばっかりかけてる。
まるで、俺とアズマ君が一緒に居てはいけないと言われたように感じた。
「ダメじゃないよ、ナツ君。驚いただけ。」
アキラが携帯を閉じながら椅子から立ち上がった。俺の前まで来ると、上から2つしかはめてないボタンを1つずつかけてくれながらゆっくりと話した。
「グループってさ、いくらメンバー同士が仲良くても、一緒に住む位仲良しって聞いた事ないでしょ?」
「………ん。」
俺、きっと凄い情けない顔してたんだろうな。午後から…アズマ君の話を聞いてから色々が不安で心許なくて………。
「アズマ君とナツ君が凄い仲良しなのは俺ら知ってるけど、他の人は知らないでしょ?」
「うん………。」
「だから、ナツ君にもお話聞きたいんじゃない?アズマ君と仲良しですって言っておいでよ。」
顔を上げてアキラを見たら「笑って笑って」って頬っぺたを突かれた。
「俺らはさ………なんつぅか、とうとう一緒に住むようになったかって、そっちに驚いた。」
ハハハって笑いながらウツミ君が俺の髪の毛を撫で、前髪を整えてくれた。
「何かお前らが一緒に住むって、世間では同居だけど2人の事知ってる俺らにしてみたら同棲だもんな。」
俺の脱いだパーカーをハンガーに掛けてくれながらヒロ君が言った。
「出来ればちゃんと報告して欲しかったな。」
腕を組んだ織田さんが溜め息をついてた。
「事前に知ってれば今回の記事に事務所も対応できたし、それに引っ越したら事務所に報告する義務があるんだぞ?」
「すみません、アズマ君がもう話したかと思って………、俺は引っ越してなくて、親父が海外赴任になってウチのマンション、未成年が1人で住めない規約で、アズマ君が俺の家に来てくれたんです。」
周りの皆にそう話すと、うんうんって頷いてた。
「じゃあ、そうやって山本が皆さんに話せるか?変な事を聞いてくる人もいるぞ?」
「はい………ん?変な事って?」
返事をした後で、気になって聞いてみた。
「アズマとヤマナツは巷ではアヤシイ関係だって噂が未だに漂ってんだよ。キスしてばっかりだから。」
ヒロ君が俺を指差して一息にそう説明した。
「コンサート中継でもキスしたし、メーカーCMでもして……る雰囲気だし。」
アツシが指折り数えながら続けて言った。
あ、そっか。
「てゆうか、俺らも衣装に着替えてるしさ、俺らも行こうぜ。」
オオサワ君が楽しそうに笑った。
「そうか、そうだな。行こう行こう!」
ウツミ君までワクワクしたような顔でそう言った。
楽屋から出て行く皆に唖然とした俺。アキラとアツシが俺の腕を組んできて、戸惑う俺の腕を引いた。
「わざとらしく通りすがってみるか?」
ヒロ君も笑ってた。
織田さんが「ついでに新番組の宣伝するんだぞ」って皆に言ったら、皆が「は〜い!」って返事した。
「アズマのスキャンダルなんて毎年出て来るんだから、いちいち凹んでたら疲れるぞ?」
ヒロ君が俺の肩に手を置いて耳元にそう告げてきた。
一年に一回スキャンダルって………。
てゆうか、俺が凹んでんの気付かれてた。
「来年辺りは、ついにお前との事がバレそうで俺は胃が痛い。」
俺の前を歩く織田さんが振り向いて俺にそう言いながらお腹を撫でてた。
「そういえばオダッチ、頭薄くなってきたよな。」
織田さんの隣を歩くウツミ君が目線を上へ向けながら言ったら、織田さんは複雑そうな顔をしてウツミ君の後頭部を叩いてた。
騒がしく声が聞こえる人ごみの近くに来ると、ウツミ君とヒロ君が俺の背中を押した。
アズマ君を囲んでるのは10人位。その周りにカメラが何台か……。
俺を見つけたアズマ君が苦笑いしてる。大変だなあ、人気のある人って。
てゆうか、俺がアズマ君と住んでるって事を言えば良いのか?イマイチ状況が理解できない。
俺に向かってアズマ君が手招きしたら、レポーターの人達が俺を振り返って道を開けてくれた。
眩しいくらいのフラッシュがたかれて思わず目を瞑った。……まだ何も喋ってないのに。こういうのが良く分かんないんだよね。
「吾妻君がヤマナツ君と一緒に同居してるって今聞いた所なんですが?」
質問されながらマイクを向けられて、頷いて返事をした。
「はい。そうです。」
「何で一緒に住んでるんですか?」
何でそんな事聞くんですか?
とは聞き返せないけど。
隣にいるアズマ君を見上げて小さく「言ってもいいの?」って聞いたら頭を掻きながら頷いてた。
「仲良しなんです。」
俺達を囲んでる芸能レポーターの人達の目が点になってた。
少し離れた所で俺達を見てる織田さんとメンバーの皆は揃って吹き出してた。
「アホか、違うだろ理由を話せって事だろが。」
俺のおでこを手の甲で軽く叩いてツッコんだアズマ君が笑ってた。
「だって何で?って聞かれたんだよ?仲良しだから一緒に住んでるんじゃん。」
「お前な……、俺から言うのも何だと思ってお前呼んだのに、意味無ぇな。」
何か変な事言った?さっきアキラも仲良しですって言っておいでって言ったもん。
「一緒に住むくらい仲良しだって事ですね?」
苦笑いしてる男性レポーターの質問に頷いた。
「あの、一応ね、ちゃんとした理由もあるんですよ?」
アズマ君が俺の頭をグシャグシャと撫でて苦笑いしながら言った。
「ヤマナツのお父さんが暫く日本を離れるんです。それでまだ未成年のヤマナツが1人で住むのが心配だから仲の良い成人男性の俺と一緒に住んでるんです。」
「あ、そういう事を聞いてたんだ。」
「そうですよ!」
数人のレポーターの人が俺にツッコミを入れた。
離れた所で見てる皆が笑ってる。織田さんなんかちょっと呆れ顔。
「仲良しなんですって理由を話されるとは思いませんでしたよ。」
女性レポーターの人が笑いながらそう話した。
「そっちの理由よりも、仲良しの理由の方が強かったって事ですか?」
他の女性レポーターの人がマイクを俺に向けた。
「うん、そうですね。俺…アズマ君の事、大好きだから。」
「ば、バカお前!」
慌てたようにアズマ君が俺の口を押さえた。途端にまたカメラのフラッシュが俺の周りを明るく照らした。
「余計な事は言わなくていいんだよ!」
余計って、別に男女じゃないんだからHigh-Gradeの仲間を大好きって言ってもいいんじゃないの?
「本当に仲良しなんですね〜。」
なぜか数人のレポーターの人達が声を揃えてそう言った。
「ハハハ、はい仲良しなんです。」
アズマ君がそう言った所で事務所の人が「お時間です」って言った。
アズマ君に口を手で塞がれたまま囲まれた人の輪の中から出ると皆の所へと連れてかれた。
ヒロ君が楽しそうに笑って俺の頭を撫でた。
「上出来上出来。頑張ったな。」
そう言ったヒロ君にアズマ君が声を上げた。
「上出来じゃねぇよ!オダッチ!ちゃんとヤマナツ教育しろよ!」
アズマ君が呆れたように織田さんに向かって言うと、織田さんが「俺かよ」って苦笑いしてた。
「お前ら、ヤマナツを甘やかし過ぎだ。ちゃんと説明してから連れて来いよ。」
溜め息混じりに呆れたような表情で、衣装の上着をパタパタと扇いでた。
…………何か、俺…またやらかしたのかな。
アズマ君を好きだと発言したのを、余計な事だと言われたのが、結構……きた。
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