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2nd Season
内緒の会話。


パジャマのボタンを嵌め、パーカーを着たヤマナツが手で髪の毛を梳いてた。

「俺、やっぱトイレ行って手洗ってくる。」

自分の手の匂いを嗅いでそう言った俺に、ヤマナツは苦笑いしてた。

「そうだね、そうしたら?」

ティッシュで拭っただけでは流石に綺麗にはならない。

手が……ヤマナツの匂い。

「ついでに何か持って来ようか?飲み物とか。」

「じゃあ、水。」

モコモコの靴下を履きながらヤマナツがそう言った。

ジャージのジップを上まで上げて、部屋を出た。

静かに廊下を歩いてトイレに入る。ついでに用も足して念入りに手を洗う。

キッチンで冷蔵庫を開けて水と缶ビールを2本取り出す。

部屋に戻ると、ヤマナツが自分の腕やパジャマを摘んで匂いを嗅いでた。

「臭くねぇよ。安心しろって。」

そうならねぇようにゴム着けてしたんじゃねぇか。

ペットボトルの水を渡してヤマナツの隣に座る。

テレビのリモコンでチャンネルを次々と変える。

「夜中は何もしてねぇな。」

そう言って、CSの音楽チャンネルにしてリモコンを置いた。

「今日さ、あ……昨日か。春馬さんにお前の話たくさん聞いた。」

「うん。」

俺を見てから、ゴクンと水を飲み、テレビへと視線を移したヤマナツ。

「きっと、お前が知られたくない話も、……聞いた。」

「………うん。」

モコモコの靴下を履いたヤマナツの足が、寄せ合うように重なった。

「お前が知らないだろう話も、聞いた。」

「……………ん、」

「夏希。」

名前を呼び掛けても、テレビの方を向いたままこちらを見ないヤマナツ。表情も変わらない。

「俺さ、」

ラグに後ろ手をついて、それでもテレビへと視線を向けたままヤマナツが口を開く。

「アズマ君に言ってない事、たくさんある。」

笑ってもいない、泣きそうでも無い、男の横顔。

「それを全部はきっと言えない。ごめん。」

「うん、別にいい。」

「アズマ君と一緒にいる俺は、全部本当の俺だから。」

春馬さんに聞いた話の内容を、ヤマナツは気にしてないかのようにそう言った。

どんな事を話したのか知ってるんだろうか。

俺が聞けば、答えてくれるんだろうか。

俺と一緒にいる、今のお前が、本当のお前なら、本当じゃないお前ってのはどこに存在するんだ。






朝御飯は和食で、ご飯と赤だしの味噌汁に紅鮭の塩焼きと小松菜の胡麻和え、そしてしょっぱい卵焼きだった。

春馬さんはワイシャツにベストに着替えてから朝食を食べるスタイル。食後にガムを噛んで会社へ向かうのだとか。

「この味噌汁……。」

お椀に口を付けた俺が思わず漏らした言葉に、ヤマナツが楽しそうに笑った。

「変わってるでしょ?」

「トマト入ってるんだ。」

続けて春馬さんが笑って言った。

「酸っぱくなるんだ。面白いでしょ。」

そう説明しながらヤマナツも味噌汁に口を付ける。

「明日はあれが飲みたいな。ゴマと卵の。」

「ん、分かった。」

春馬さんが明日の朝食の汁モノをリクエストしてた。

「吾妻君。」

「はい。」

「夏希がわがまま言ったみたいで悪かったね。」

「…………いえ。」

はっきりとは言われてないが、何となく数時間前の事を言われた気がして箸が止まってしまった。

「おかわりいる?」

ヤマナツは表情も口調も変えず、空になった俺のお茶碗に手を伸ばした。

「あ、軽く。」

「じゃ、俺も。」

春馬さんも茶碗をヤマナツに差し出し、両手に茶碗を持って立ち上がったヤマナツが炊飯器からご飯をよそってくれる。

「ずっと起きてたけど、親父が出掛けたらヒト眠りするつもりなんだよ。」

茶碗を春馬さんに渡しながらヤマナツがそう言ってた。

「そうなの?」

俺を見てそう聞いてくる春馬さん。

「はぁ、」

仕事が昼からなんで、とか曖昧な返事をする。

春馬さんが卵焼きを箸で摘む。

ヤマナツも卵焼きに手を伸ばした。

残り一切れになった卵焼きを、お皿ごと俺の方へと寄越した春馬さん。

「今日晩御飯…鍋にしよっかなぁ。」

ボソリと呟いたヤマナツがもぐもぐと口を動かしてる。

「鍋か、熱燗が飲みたいなぁ。」

その独り言みたいな呟きに呟きを返すように春馬さんが言って、箸を置いた。

「ご馳走様でした。」

「はい。」

手を合わせた春馬さんに、ヤマナツが返事してた。

時計を見ながら携帯電話を開いた春馬さんが誰かに電話を掛けてた。

「おはよう、……はい、……ん、分かりました。」

短い会話をした後で携帯を閉じてソファに置かれたジャケットと鞄の方へ電話を投げた。

パタパタと足音を立ててダイニングを出た後、ドアの閉まる音が聞こえる。

「朝御飯食べたらすぐトイレなんだよ。」

茶碗のごはんを箸で摘みながらそう教えてくれたヤマナツ。

「多分、もう下に迎えが来てんじゃないかな。」

もぐもぐと動く口と頬が可愛い。

向こうの方で聞こえたドアの開く音と閉まる音、歩いて来る足音。

ワイシャツの襟を立ててネクタイを首に巻く。器用に結んでジャケットを羽織る。

「ん、いいよ。」

ヤマナツが指で丸を作ってそう言った。

「はい、じゃ行って来ます。……あ、ハンカチありがとな。」

ジャケットのポケットを叩いてそう告げた春馬さん。

「どういたしまして、行ってらっしゃい。」

「いってらっしゃい。」

ヤマナツの後に俺もそう声を掛けたら、春馬さんが楽しそうに笑った。

「いいね、息子が2人居るみたいだ。」

急ぐでもない足音を立てて、春馬さんが出掛けて行った。

ヤマナツと春馬さんの、日常的な朝の風景なのだとすぐに分かった。

何ヶ月も離れていても、一緒に過ごす朝は変わらないのだと不思議なものを見せられた。

ネクタイを絞めた後、鏡じゃなくてヤマナツに見てもらって、ハンカチにアイロンをかけたヤマナツにきちんとお礼を言ったりとか。

食べ終わったお皿を重ねて椅子から立ち上がったヤマナツがコーヒーを淹れてくれようとした。

コーヒーの缶を開けてから俺に振り返るヤマナツ。

「あ、寝るなら飲まない?」

「飲む。寝ないから。」

「俺は寝るから薄くするね。」

ヘヘヘって笑ったヤマナツが挽いた豆をフィルターに入れる。

「春馬さん、気付いてたのかな。」

「起きてたのは気付いただろうけど、何してたとかは……多分バレてないと思うけど。」

別に気にしない、とでもいうような態度のヤマナツ。

「何つぅか、変わった親子だよなぁ。お前と春馬さん。性に対してもだけど男の恋人の俺に優しいし。」

その理由は昨日しっかりと聞いたのだが。

「そうかな、うん、そうだね、変わってるかも。」

疑問符がすぐに肯定に変わって、変な言い回しだと思わず笑った。

「ノブ兄にさ、男の恋人居た時あったんだよね。」

「え!?」

内緒ね、とでも言うように目配せして口に指を当てた。

「だから、男同士の恋愛に対しては免疫あるのかもしんねぇなって思う。」

春馬さんだけじゃなく、自分もそうだと、暗に含んだ言い方だ。

だからこそ、俺の気持ちを真っ直ぐに受け入れてくれたのだと分かった。

「初めて彼女できた時も、からかわれたけど邪魔したりとか反対しなかったし。」

「ルミちゃんだっけ。」

「そう。」

フフって笑ってマグカップにコーヒーを注ぐヤマナツ。

「ルミちゃんの時は、ばあちゃんも協力的だったなぁ。まぁ…ルミちゃん超可愛かったからな。」

お前だって超可愛いけど……。

「それから何人かと付き合ったけど、多分親父は全部のコと会ってると思う。」

それって、お前が会わせてるんじゃねぇのか?

お前も春馬さんも、お互いに何かずれてんだよ。

「俺に初めて酒飲ませたのも親父だし、」

それは春馬さんに聞いた。で、酔い潰れて寝ちまったんだろ。

「初めてオナニー教えてくれたのも親父だったし。」

「…………は?」

「前に言ったじゃん?ウチって11歳で初めて精通すんだよね。」

それは確かに聞いた。聞いたけど、

「最初はさ、口で説明されて、こうするんだぞーとか教えてもらったんだけど、」

思い出しながら、さも懐かしそうに話すヤマナツ。

「それまでの未知の体験でエッチな本見てもどれが性的興奮か分かんねぇの。」

そうか?……つか俺の始めての射精っていつだっけ。

「ちん○ん勃ったはいいけど、擦ったら痛いし。」

力入れ過ぎだろ、そりゃ。

「ムリだぁ、と思った。」

諦め早っ。

「見るに見兼ねた親父が手伝ってくれてさ。」

……てゆうか、見てたのかよ!

「俺の初めては、親父の右手だもん。」

頭の中で、前に写真で見せられた子どもの頃のヤマナツがポンと浮かぶ。

その傍らに今の姿の春馬さんがポン……。

春馬さんが子どもヤマナツのチン○ンを……。

春馬さんの右手が俺の見慣れた白いので……。

あ、ダメだ。想像しちゃだめだ。脳が危険信号を出してる。

それは……変わってるとかとはちょっと違うのでは……。

というより、かなり衝撃的な事実をさらっと告げられたぞ………。




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あきゅろす。
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