2nd Season
夜とひととき。
交代で風呂に入り、自分の部屋でテレビを眺めてたらヤマナツがトレイにカップを載せてやって来た。
パジャマの上にフリースのパーカーを着て、足元はふわふわの靴下。
男用のふわふわ靴下が見当たらなかったと散々文句を言った後、家で履くだけだからいっか…と100円ショップで購入したオレンジと白のストライプ。
「出来たのか?」
ラグに座り込んだ俺の前にトレイを置いて、ヤマナツも膝をついて座る。
「うん、……ジャーン!」
パーカーのポケットからケースに入ったUSBメモリを俺に見せるヤマナツ。
え?そんなの、なのか?
てっきりメモリーカードとかディスクとかなのかと……。
「勘違い、してたけどさ、一応予定通りに完成。」
「そうだな、1日ずれてたな。」
ハハハ、と笑って勘違いしてた恋人の頭を撫でてやる。
「部屋の掃除も、クッキーも作ったし、コレも出来た。で、明日親父におかえり〜ってちゃんと言うつもりだったのに、それだけ間に合わなかった。」
「うん、まぁでも、頑張ったじゃん。」
「……うん、俺、頑張ったよね?」
「頑張った頑張った。」
メモリをトレイの上に置いたヤマナツがカフェオレの入ったカップを手に取って、上目遣いで俺を見た。
「俺、明日オフにしてもらったんだ。」
「俺は今日オフだった。打ち合わせはあったけど。」
急に仕事が無しになって、とヤマナツに説明すると、カップに口を付けながら小さい控え目な声で俺の名を呼んだ。
「……明日は、何時に出るの?」
「昼から局での打ち合わせだけ。」
テレビ局で番組の打ち合わせが1本。その後は事務所に寄る予定。
「眠い?」
…………ん?
「もう、さ。……こんな時間だし、俺起きてるつもりなんだ、けど。」
確かにもう夜中の2時を回ってしまってはいるけど。
「朝、親父に朝御飯作ってあげようと思って。」
「うん、そうだな。そうしたら?」
「で、起きてるんだけど、」
カップをトレイに置いて、座ったままパーカーのポケットに手を入れながらキョロキョロと辺りを見渡すヤマナツ。
「いいよ。一緒に起きててやるよ。」
そんなの、普通に言えばいいのに。おかしくてパーカーのフードを引っ張って被せてやった。
「何する?オセロでもするか?……って、マンションに置きっ放しだ。」
自分のマンションにあるゲーム。何度対戦しても必ず俺が勝つのだが。
テレビなんか見てたら、ヤマナツは絶対眠くなりそうだしな。
「俺の予定では、今日はアレを完成させてそれなりに早く帰って来てさ、アズマ君に良くやったなって褒めてもらうつもりだった。」
「そうだな。」
「俺、……頑張ったよね。」
ポケットに入れた手で膝を抱えるヤマナツ。フリースの塊みたいな形で俺を見る可愛い物体。
「褒めて、貰いてぇなぁ……。よしよしって。」
時々現れる、甘えんぼのおねだりヤマナツの出現に、腰を上げてヤマナツと向かい合わせに座った。
「よしよし。よくやったな。偉いぞ。可愛いぞ。好きだぞ。」
言いながら、頭や肩、背中を撫でてやる。
顔を寄せ、唇同士を重ねる。
「もっと、よしよしして。」
囁くように、ヤマナツが更なるおねだり。
シャンプーとカフェオレの匂いのする身体を抱き締める。
「………もっと。」
「ヤマナツ。」
俺のおでことヤマナツのおでこを軽くぶつけた。
ヤマナツが何を待ってて、何をして欲しいのかは何となく分かる。
「春馬さんが、居るだろ。」
「……間に、廊下…あるし。」
「あのなぁ……。」
「だって、」
小さく、本当に消えそうな声で、
「今日の夜まで、そのつもりだったんだもん。」
耳まで赤くして、自分の膝に顔を突っ伏したヤマナツ。
自分の父親が明日帰って来ると、数日前から色々と準備をしていたヤマナツが、今日の夜は俺と過ごすつもりだったのだと告白する。
春馬さんが帰ってる間は自分のマンションに帰るつもりだったし、昨日一昨日もヤマナツは忙しく動いてた。
「………ちょっと前までは、」
赤くなってる耳を指でなぞると、ピクリと肩を震わせるヤマナツ。
「家族の用意したホテルでエッチすんのも恥ずかしがってたくせに、」
3月のヤマナツの誕生日に、晩御飯を食べたホテルの部屋をヤマナツのお祖父さんがプレゼントしてくれて泊まった。ホテルのペントハウスだった。
「こんな近くに父親がいるのに、俺にセックスしようって誘うのか。」
「………な、」
わざと、ヤマナツの琴線に触れるような言い回しで、耳に直接言ってやる。
顔を上げた所を、口を塞ぐ勢いでキスしながらヤマナツの身体をラグに押し倒す。
「ん、……んっ!」
パジャマの上着の裾から手を入れ、直に肌に触れる。
派手な抵抗はしなくとも、折り曲げた膝や手が多少は暴れる。
右手でヤマナツの口を塞いで左手をラグについて上半身を起こした。口を押さえられたヤマナツがまん丸の目で俺を見上げる。
「……声、出さねぇように、頑張れよ。」
一瞬泣きそうな顔をした後で、ヤマナツは瞼をゆっくりと伏せて頷いた。
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