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2nd Season
「おかえり。」


日付が変わったと同時に、俺の携帯電話にヤマナツから着信が入る。

『もうすぐ終わりそうなんだけど、まだ飲んでる?』

何だ、その言い方。お前が帰る頃に俺達も帰ろうと思ってんのに。

「終わりそうって、何時に帰れるんだよ。」

『………1時前には帰ります。』

「分かったよ。俺らもう帰るトコだから。」

電話の向こうのヤマナツは、春馬さんも帰って来てるし色々と焦ってる感じではあった。

「春馬さん、明日早いって。お前が帰って来ても寝てるかもな。」

そう意地悪を言ってやると、少し黙った後で『替わって下さい』ってお願いをしてきた。

携帯電話を隣に座る春馬さんに渡すと、わざと咳払いをして低い声で電話に話してた。

「何してんだ、こんな時間まで。」

うわ、お父さんぽい。って、お父さんだっけ。

でも、それは聞かないでやって欲しい。ヤマナツがこっそりと何かを計画して一生懸命なのは今まで見てきた。

「明日?……6時には出るかな。……いいよ、無理すんな。」

何かしらの会話をする春馬さんの顔が綻んでる。

「……うん、気を付けて帰って来るんだぞ。」

俺の携帯を差し出した春馬さんから受け取り、「もしもし?」と話し掛けてみる。

『あの、さ……アズマ君は、寝、ないで…待ってて、欲しい、んだ、けど。』

細切れになった言葉でそう言ってくるヤマナツ。

何か、話したい事でもあるのか?

「冗談だよ、俺も春馬さんもお前が帰るまで起きてるって。」

笑いながらそう答えてやると、電話の向こうから陣内さんや松岡さんの声が聞こえる。

『………ヤマナツ大胆だなぁ。』

『アズマ君起こしといて何する気?』

『もう、うるさいなぁ!』

からかわれて怒った声が大きく聞こえた。

いい雰囲気の中で、ヤマナツが楽しく過ごしてるのを垣間見れた気がした。

「何してくれんの?」

顔が緩んだ。笑い声交じりにそう問い掛けたら、

『……何もしねぇよ!じゃあね!』

ブツ、と急いで切られてしまった。きっと赤い顔して、唇尖らせてんだろうな。

携帯を閉じて、グラスに残ったお酒を全部飲んだ。

春馬さんも、煙草を灰皿に押し潰して椅子から立ち上がる。

「じゃ、夏希が帰って来る前に帰ろうか。」

ノブオさんが、春馬さんのコートと俺のジャケットを渡してくれる。

「もう1回位来るから。」

短く、春馬さんがノブオさんに言ってた。

今度は誰と来てどんな話をするんだろうと、興味が湧いた。

今日話した事で、またヤマナツと春馬さんの事をたくさん知った。

自分の事も話した。

ヤマナツの話しもたくさんした。

「……さっきの電話の向こうで、サックスの音とか聞こえた。」

店を出て直ぐに、ボソリと独り言みたいに春馬さんが呟いた。

以前にヤマナツが言ってた春馬さんの特徴を思い出す。

「耳が良いんですね。」

冷えた空気を肌に受け、俺も小さく呟いた。

「日本には1週間位の滞在だけど、多分半分位しか家に帰れないと思うんだ。」

「そうですか。」

「だから、吾妻君はいつも通りあの部屋に居てね。」

「…………はい。」

春馬さんが帰って来てる間は、自分のマンションに帰るつもりだったのを見透かされていた。

「明日は早く出るけど、帰りも早いからまた晩御飯一緒に食べよう。夏希が何か作るって。」

いつもの楽しそうな笑顔の春馬さん。真っ直ぐに前を向いて歩くその姿勢が格好良い。

身長は俺とそう変わらない。肩幅は俺の方が少し広いけど、春馬さんもがっしりとした体付き。

ノブオさんにも同じような空気を感じる。

………大事なものを、抱えてる大人の男。

こんな風には、俺はなれないかもしれないけど、大事なものを抱えて前を向いていたい。





マンションに到着し、冷え切った室内に明かりを灯す。エアコンのスイッチを入れ、キッチンの給湯パネルでお風呂にお湯を張るボタンを押した。

「春馬さん、明日早いなら先に風呂入っちゃって下さい。」

「うん、そうする。」

ネクタイを緩めてスルリと首から抜いてた。

ヤマナツの部屋の隣の春馬さんの部屋に明かりが点く。

一昨日位から、部屋を掃除したり残された衣類を洗濯したりとヤマナツがテキパキと春馬さんを迎える準備をしていた。

時間が不規則な俺達だけど、日々の生活の産物は溜め込まないように規則的にこなしてるつもりだ。

つまり、食事での洗い物や衣類の洗濯物、部屋掃除の事だが。

春馬さんが浴室に入ったのを見届けてから、俺達が留守中に部屋中を掃除機掛けてくれる丸いコの中からゴミを捨てる。

明日燃えるゴミの日。

自分達の部屋のゴミ箱のゴミも集めて台所で袋に詰める。

食洗機の中の食器等も食器棚へと片付ける。

「さて、と。」

自分の部屋へ戻り、ジャケットをハンガーに掛けて部屋着のジャージに着替える。

温まってきたリビングで、ヤマナツの帰りを待つ。

ふと、テーブルに置かれた春馬さんが買った雑誌が目に入った。

ビニールの袋に入れられた発売されたばかりの女性誌。今月号は俺達High-Gradeの特集。

…………まずく、は、ねぇか?

その雑誌の内容は、発売前に見せられていて知ってる。

アツシ曰く「ヤマナツにセクハラする俺」が載っている。

抱かれたい男1位に選ばれた俺が、今後に期待1位に選ばれたヤマナツと絡んだページ……。

ボトムを履ただけの上半身裸の俺が、同じような格好のヤマナツを抱き寄せるという、何とも意味深なショットを要求された。

たまたま背中から腰へと右手を滑らせたら、指がヤマナツの下着の中に入り込んだ。

カメラに背を向けたヤマナツが俺をチラリと見た。

わざと反対の手で、尻の左側をボトムの上から鷲掴んでやった。ら、その写真が使われてしまった。

撮影終了の合図と共に、ヤマナツが俺の腹を殴ったのは言うまでも無い。

「………空手、習ってたのか。」

どうりで。

……つか、反則だろ。あの顔でケンカ強いとか。

春馬さんが、ヤマナツの可愛らしいページだけを見てくれればいいなぁ…等と考えてたら、浴室から湯気を纏いながら春馬さんが出て来た。

「この水、飲んで良かった?」

ペットボトルの水を俺に見せて聞いて来た。

頷いて、ソファから立ち上がった。

「春馬さんの家なんですから、そんなの気にしないでいいです。」

「ハハハ、そうだね。いや…何か前より片付いてるからさ、吾妻君綺麗好き?」

ソファに座って、雑誌を袋から取り出してた。

あぁ、ドキドキする……。

そこに座れ!とか言われねぇかな。

ペットボトルの水をゴクゴクと飲む春馬さんが表紙を眺める。

「彼氏にしたい、か。誰が1位?あ、吾妻君じゃないか。」

ページを捲って見出しの部分を読んで「お!」とか声を上げる春馬さん。

その「お!」が「ん!?」に変わりませんように。

マグカップにコーヒーを入れてリビングに戻って来たら、春馬さんが雑誌のページをペラリと捲った。

「ん!?」

す、すみません!!!

両手でマグカップを持って春馬さんの様子を窺う。

一旦雑誌に顔を近付けてから離れて眺めてる。

「あぁ、ココに居るのか。」

短い呟きの独り言を口にした春馬さん。

問題のページではなく、アツシとヤマナツ2人のカワイ子ちゃんページだった………。

弟にしたいタレントランキングでこれまた1位を獲ったヤマナツと3位のアツシに特別見開き2ページ。

クマのぬいぐるみを敷き詰めたセットに、クマっぽい格好をしたアツシとヤマナツが紛れてる微笑ましい和みのページ(ウツミの兄さん命名)。

遠くでガチャンとドアの閉まる音がした。

「あ、帰って来た。」

春馬さんと俺、同時に声を上げて目を合わせた。

トコトコと廊下を小走りでやってくる音。

リビングのガラスドアを開けて、お待ちかねのヤマナツが笑顔で入って来る。

「おかえり!」

春馬さんとヤマナツが同時にお迎えの言葉を口にする。

春馬さんはアメリカから「おかえり」で、ヤマナツはお仕事から「おかえり」で2人とも間違いじゃないんだけど、そのタイミングがピッタリで、笑わずには居られない。

吹き出して笑った俺に、親子が俺を見た後で同じように笑い出す。

「走って来たのか?鼻が赤いぞ。」

「門限、遅れたし。」

「しょうがないな、今日は許してやる。」

「アハハ、ありがと。」

そう会話する2人を眺めてると、手を広げた春馬さんの胸の中へヤマナツが抱きついた。

ぎゅう、とお互いの身体を抱き締めあう親子。

前にも同じ光景を見た。

今年のお正月コンサートで、クリスマスコンサートに来られなかった春馬さんにがっかりしてたヤマナツの為に、無理を言って名古屋会場まで春馬さんに来てもらった。

ギリギリでアンコールにしか間に合わなかったけど、ほんの少しの時間でも2人共抱き合って喜んでた。

ウツミの兄さんが楽屋で「いくら若い父親でもヤマナツ位のデカイ息子が抱きついて再会を喜ぶなんて、よっぽどだよな」と微笑ましそうに言ってた。

お祖父さんやお祖母さんもいるけれど、春馬さんとヤマナツ…2人きりの家族が、お互いをどれほど大事に想い合ってるのかを目の当たりにして嬉しい気持ちになる。

「………ん?誰と一緒に居たんだ?煙草の、」

ヤマナツの身体を離した春馬さんがヤマナツの髪の毛の匂いを嗅いでる。

「そう、ブラックロシアン吸ってる人、居るんだ。」

「へぇ、どこの不良親父だ?」

不良親父って………。

ヤマナツも苦笑いしてた。

春馬さんの吸っているタバコが、そうゆう種類の人が好むものだと笑いながら教えてくれた。

その煙草の箱を初めて見た時は、上質なチョコレートでも入ってるのかと思うようなもので。

1箱750円もするのだとか。

ヤマナツの顔をじっと見た春馬さんがヤマナツの下唇を摘んだ。

「いひゃい。」

顔を顰めて苦痛を訴えたヤマナツの口の中を春馬さんが覗く。

「噛んだのか?口、腫れてるぞ。」

唇の内側がほんのり赤くなってて、その中心に小さな傷が2つ。

「……うん、今朝噛んだ。つか、人の唇摘むとかやめろよ。」

春馬さんの手を掴んで顔の前から退けるヤマナツ。

「アズマ君も居るのに。」

「お前と春馬さん親子がスキンシップ多めなの知ってるから、別に驚かねぇ。」

そう言ってやって、カップのコーヒーを飲む。

「さて、じゃあ俺はもう寝るから。明日早いから勝手に出掛ける。2人共寝てていいからな。」

ペットボトルと雑誌、首に掛けてたタオルを持ってリビングを後にした春馬さんが自分の部屋へと入った。

ドアの閉まる音を聞いてから、ヤマナツが俺に寄ってきた。

「………ごめんなさい、相手…してもらって。」

「楽しかったよ。お前の話しいっぱい聞いた。」

「そうかも〜…とか思ったら、気が気じゃなくてさぁ。」

ヤマナツの頭が俺の肩にぶつかる。腕が俺の腰に回されて、おでこをすり寄せるようにして来る。

可愛いヤツだ。

「春馬さんと<一柳>行った。」

ラーメン屋の名前を口にしたら、ヤマナツが顔を上げた。

「何食べた?」

「俺は味噌で春馬さんは」

「醤油?」

「そう。」

春馬さんは醤油ラーメンが好みなのだと、ヤマナツの問いかけで気付く。

ボソリと「ラーメン食いたくなってきた」と、ヤマナツが呟いてた。




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