2nd Season
遅れ馳せプレゼント。
俺の誕生日から2週間が過ぎた頃だった。
High-Gradeの仕事を終えて、ヤマナツとマンションに帰って来て部屋の電気を点けて目を疑った。
「あれ?」
目の錯覚か?いや、違う。
見慣れないファブリック。部屋に入ったと同時に感じた違和感。
床に荷物を置いて隣に立つヤマナツを見た。
「………誕生日、プレゼント。」
「これ?」
「ん。」
頬を少し赤くした可愛い恋人が上目遣いで恥ずかしそうに手を後ろで組んでた。
「へぇ。」
広い部屋の中にあった大きな家具が、一回り大きくなってた。
「これって、普通のダブルじゃ…無ぇよな。」
「うん。キングサイズ。」
「王様?」
フフって、笑い声が俺の耳に届く。
「そう、王様。」
その大きな家具を目の前にして、2人で眺めながら会話を進める。
「…………どう、かな…?」
「うん、ありがと。」
「いえ、どういたしまして。」
隣のヤマナツの肩を組んだ。
「病気の時でも、……2人で寝られる大きいベッドがあったらなぁって、思ったんだ。」
静かに、本当に恥ずかしそうにヤマナツが俺を見ないで話した。
ベージュに青色の細い手書き風のストライプのベッドカバー。
以前のものより大きくなった俺の部屋のベッド。
熱を出して寝込んだヤマナツを、ゆっくり休ませたくて違うベッドで寝たあの2晩の事で、そんな風に思ってくれたなんて。
寝ようと思えばどこでも寝られる。ヤマナツの部屋にも春馬さんの部屋にもベッドはあるし、座敷の押入れに客用の布団がしまってある事も知ってる。
それでも、病気の時でも同じ布団で寝たいのだと思ってくれたのが…なんつぅか。
プレゼントは……そのものじゃなくて気持ちが大事だって言うけど、それを選んでくれた気持ちが本当に嬉しいだなんて。
「じゃ、早速使うか?」
「え、もう寝るの?」
目を丸くして俺を見上げたヤマナツ。
「寝心地調べねぇとな。」
「同じメーカーのだから変わらないよ、きっと。」
形は以前のものと変わらない、大きさだけが変わったベッドを指差す惚けたような事を言ってるヤマナツが、何か勘違いをしているのに、俺は気付いた。
………久し振りに来たな、天然坊主が。
「ごめん、言い間違えた。」
不思議そうに俺の目を見つめる茶色がちの眼球が美味そうに見える。
「寝心地じゃ無くて、使い心地だった。」
「は……?やだよ、明日ダンスレッスンあるじゃ」
ヤマナツが文句を全部言い終わる前に身体を抱えてベッドへと放り投げた。
固めのマットが歪む音と、新しい木と布の匂いが舞うように広がる。
「このデカいベッドで何されるかなんて、分かってんだろうが。」
上着を脱ぎ捨てながらヤマナツを見下ろすと、みるみる赤くなって困ったような顔をしてた。
お前だって、何もしないつもりな訳無ぇくせに。
「ごめ……、あの、さ。」
肘をついて上半身を起こしかけてベッドカバーの上を俺から逃げるようにベッドヘッドへと後ずさる。
「何逃げてんだ。」
足首を掴んでそう言ってやると、身体を大きくビクつかせた。
「………あの、……まだ、替えのシーツ買ってないんだ……っ、」
…………ん?
デジャブ?
前にもこんな事あったような気がするぞ。
シーツを、汚すような事とか何とか言って…結局した記憶があるんだけど。
「汚さねぇ。」
「無理でしょ。」
「タオル、敷いて。」
「無理だって。」
「してぇ。」
「ブッ。」
吹き出して笑ったヤマナツが、ベッドの上に座り直して、俺へと腕を伸ばした。
吸い寄せられるようにその身体を抱き締め包み込んでやる。
俺の背中をポンポンと叩きながらヤマナツが「よしよし」って言ってる。何で俺が宥められてんだ。
「明日、一緒に買いに行こ?アズマ君の好きな模様のシーツ。」
「……そういえば、前のベッドは?」
「あ、そうだ。座敷に置いてあるんだ、どうしよう。」
近い距離にある可愛らしい顔が俺を見た。
「お前の部屋のベッドと交換するか?」
「え、いいよ。狭くなっちゃう。」
確かに。ヤマナツの部屋狭いんだよな。
まだ半年しか使ってねぇから新しい方だし捨てるのもなぁ。
「ベッドいる奴探すか。でも……俺らが使ってたって言ったら誰も欲しがらねぇと思うけど。」
「アハハハ。」
あはは〜じゃねぇよ。本当にどうするんだ。
「カバー外したけど、別に変なシミとか付いてなかったし、リサイクルする?」
そうだよな、それしかねぇなぁ。
「でもさ、買ってから思ったんだけど………。」
ベッドから足を下ろしたヤマナツが立ち上がりながら本当に困ったように胸の前で腕を組んでた。
「シーツとか買わなきゃってのもだけどさ、今日シーツやカバーをセッティングしてて思ったんだ。キングサイズって、リネン類もデカイよね。」
「まあ、そうだろ。」
「洗濯とかさ、干すの大変だよね。場所取って。」
「ん?」
「乾燥機入れるとさ、微妙に縮むじゃん?」
………何だろうな、この生き物は。
ベッドシーツを汚す事前提で話してるってのは、恥ずかしくねぇのかな。
でも、この何とも不思議で可愛らしい生き物が、俺は大好きでどうしようもないんだな。
「俺がシーツ洗濯係になるから、思う存分汚してくれ。」
「え、ちょっ……俺が汚すの?アズマ君だろ!」
「はぁ!?…俺じゃねぇだろ!」
なにで汚れるかなんて、敢えて口にはしねぇけど!
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