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S☆Ρ
8-2・黄色いさくらんぼA

朝、6時前にアズマ君に起こされて、二人で大浴場の温泉に入りに行った。

俺達が出る迄、他には誰もいなくて、2人して身体を伸ばして入った。

身体を拭いてたら織田さんが欠伸しながら入ってきて俺達を見て「おはよう」って言った。

「てか、早いな。もう出るのか?」

浴衣を脱いだ織田さんを見て、俺とアズマ君は顔を見合せて笑った。

「オダッチ!その腹ヤバイって。」

プチメタボなお腹を指差してアズマ君が言ったら、織田さんはお腹を撫でて「まだ大丈夫」って歯を見せて笑ってた。

「また後で部屋行くから、朝食済ませとくように。」

そう言って風呂場へ入って行った織田さんに2人で返事した。

部屋に戻って、運ばれた朝食を眺めてたら、俺の携帯が鳴った。

ディスプレイの表示に浮かんだ『秦克成』の文字に、思わずアズマ君を見てしまった。

「出れば?」

そう短く告げられ、俺はボタンを押した。

「もしもし。」

『……ナツキ?』

「な、何?どうしたんだよ!」

泣いてるようなアマナツの声に頭が熱くなって大きな声が出た。

『やっぱダメだ。俺、秦さんトコ居られない。お前にも何かあると嫌だからもうお前とも……連絡しない。』

「待って!おい、アマナツ!」

俺が話す前に切れてしまった携帯。俺は焦って着信履歴から秦さんの家へ電話を掛けた。

音は鳴ってるけど電話には出ない。20回程コールした後俺は携帯を閉じた。

「大丈夫か?」

アズマ君がそう聞いてきて俺は顔を上げた。大丈夫じゃない……、俺は首を振った。

「……友達だろ?」

そう聞かれて頷いた。

「高校ん時の……、もう会えないかも……。」

震える声でそう話したら、アズマ君は俺を抱き締めてきた。

「ケンカしたのか?」

「違……、」

凄い仲が良かったわけじゃない。クラスが1年と3年の時一緒だった。アマナツは寮生で、一度だけ寮に遊びに行った。

音楽室で俺がピアノを弾いてるのを何も言わないでずっと聴いてた。

たくさん話をした後は暫く距離を置いてた。人と仲良くなるのが怖いって一度だけ言ってた。

『お前にも何か……』って言ってたから、秦さんに何かあったんだ。……アマナツのせいじゃないと思う、けど自分のせいだと思い込んでるし。

アズマ君の肩にしがみついて大きく深呼吸した。

「……ちょっと…、取り乱した。ごめん。」

そう言って顔を上げたら頭を掴まれて口を塞がれた。

アズマ君の舌が俺の舌を舐めるように動いて、舌裏を擽られたら身体が震えた。

「……しんどくなったらいつでも俺に甘えろよ。」

他に何もできないと思うから、って少し笑って言った。

俺がアズマ君に抱きついたら、頭や背中を「よしよし」って撫でてくれた。

朝食を食べながらアマナツの事を話した。

「秦……ってあの秦克成か?俺読んだ事あるかも。」

「俺も一回しか会った事ないけど、作家って変わってんなって思った。昨日、電話掛かって来た時は…何かマトモだった気がする。」

味噌汁を啜りながら思い出した。

「アマナツ、多分身の上が複雑なんだと思う。家族もいないみたいだったし……、本人から聞いた訳じゃないけど。」

「ふぅん。」

茶碗を持ったまま漬物を箸で摘んで口に運びながらアズマ君が相槌を打った。

「……アズマ君との事……話しちゃったんだ。」

「ふぅん。……そっか。」

俺を見て、アズマ君は箸を止めた。

「お前が俺らの事を話すって事は、それ位信頼してる大事な友達なんだろ?そいつがどんな奴でも、お前にとってどんな存在かって事は分かった。」

そう言ってまた食事を続けた。

「でも、お前がそいつと会うのは厳しいかもな。会えないんじゃなくて、会わない……んだろ?」

俺は箸をくわえたまま頷いた。……分かってる。きっと会えない。

「とりあえず、秦さんトコにまた電話してみる。」

そう言って箸を置いた。

「ごちそうさまでした。」

手を合わせてそう言った俺に、アズマ君は「後でヨーグルト買ってやるから食えよ」って言った。

織田さんが部屋に来て、今日の段取りを話してくれた。午前中は海での撮影をしてお昼ご飯を食べて、東京に戻る。帰ったら夕方からHigh-Gradeでテレビ番組の収録。

アズマ君が着替えながら「夜、秦さんトコ連れてってやろうか?」って言ってくれた。

「ありがとう、じゃあ時間通り終わったら……。」

アズマ君は俺のパーカーのフードを整えながら頭をぐしゃぐしゃと撫でた。


無事に撮影を終えて織田さんと3人で新幹線に乗って東京へ戻った。

新幹線の中でアズマ君に凭れてちょっと目を瞑った。

「寝たの?」

織田さんがアズマ君に聞いてて「朝早く目が覚めたみたい。」って寝た事にしてくれた。

……俺、ホント甘やかされてんなぁ。駄目だよな、こんなの。

そう思ってても、身体を起こす事が出来なくて自分のダメさ加減に呆れてしまう。

新幹線に乗る時に、アマナツへのお土産を買った。

アマナツに会って、アマナツの話を聞いて、俺もこの胸のモヤモヤを聞いてもらいたい。

普通の恋話なら他の友達にもできるけど、アズマ君との事を話すならアマナツにしか言えない。

動揺する事無く、偏見もしないで、的確な言葉をくれそうな気がする。俺にとってそういう存在なんだ。

織田さんがアズマ君にコーヒーを渡したみたいで、俺の鼻にも香りが漂ってきた。低い小さい声で「飲むか?」って聞かれて、身体を起こした。

紙コップに入ったコーヒーを渡された。気付いた織田さんがもう1つコーヒーを頼んでた。

紙コップを持っていない方の手を、肘掛けに置いてあったアズマ君の手に絡めた。俺を見たアズマ君は、手を握り直すと指を絡めて握ってくれた。

コーヒーをアズマ君に渡そうとした織田さんが俺達の繋いだ手を見て動きが止まってた。

「織田さん、またガトーショコラ食べたいです。」

俺は気にせずコーヒーを飲みながら織田さんに話掛けた。

「……あの店、横山のお気に入りなんだ。」

そう言って、席に座りながら鞄から手帳を出してた。

「アズマ君もきっと好きだよ?今度織田さんに連れてってもらお?」

「俺はオダッチより横山マネージャーと行きたい。だってケーキだろ?男ばっかりでケーキ食うって。」

苦笑いしながらアズマ君がコーヒーを啜った。

「今、スイーツ男子流行ってるから平気。」

そう言って織田さんは、俺に手帳に挟んでたショップカードをくれた。あのカフェのカードだった。

「ていうか、俺はソレを注意するべきなのか、突っ込むトコなのか、どっちなんだろうな……。」

織田さんは俺達の手を指差して苦笑いしてた。

「昨晩、エッチ我慢したんだから大目に見てよ。」

アズマ君がさらっとそんな事を言った。

「……デリカシー無さ過ぎだろ、その発言。普通恋人の前で第三者に言わないだろ。」

呆れたようにアズマ君に冷ややかな目を向けてた。

「……エッチって、どこから?身体触ったりとかってエッチに入るの?」

2人にそう聞いたら2人は声を揃えて「はぁ?」って俺を見た。

「キスは…、違うよな。身体とか触って気持ち良くなったらもうエッチになるのかな。」

俺の素朴な疑問に2人は唖然としてた。

「あ、でもそうなると、キスで気持ち良くなったらエッチになるか。じゃぁキスもエッチ?……そうなると、気持ち良くなるのって、どこまでがエッチじゃないのかなぁ。」

「ヤマナツ……、アイドルなんだからエッチを連呼すんな……。」

溜め息をつきながらアズマ君が繋いだ手で俺の頭を小突いてきた。

「カメラ回ってなくて良かった……。」

織田さんも溜め息ついてそう呟いてた。

あれ、また変な事言った?てゆうか、いくら俺でもカメラの前で『エッチ』っていう単語は言わないよ。

東京駅からタクシーでテレビ局へ行き、織田さんと別れた。そのまま織田さんはタクシーに乗って事務所へ向かった。俺のスケジュールを調整するんだそうだ。

「移動って、歌ったり踊ったりするより疲れるよな。」

伸びをしながらアズマ君がそう言った。

控え室へと歩きながらすれ違う人達に挨拶をした。

ドアを開けたら皆が俺達を見た。アズマ君が「おはようっす。」って皆に言ってた。

「お帰り〜!お土産は?」

アキラとアツシがアズマ君にそう聞いて寄ってきた。

「ねぇよ。」

笑いながら2人のおでこを指で弾いたアズマ君に、アツシが文句言ってた。

「マジで無いの?」

アツシが俺にそう聞いた。

「だって、何買っていいか分かんねぇもん。」

俺がそう言ったら、アズマ君が箱を出して「だから饅頭」ってアキラに渡しながら言った。

「でも、ウツミ君にはお土産あるよ。」

俺が鞄からカプセルを出してアズマ君に渡した。アズマ君はウツミ君にカプセルを投げた。両手でキャッチしたウツミ君がカプセルの中身を覗いた時に、俺とアズマ君は2人で声を揃えて「ミナミちゃん。」って言った。

「マジ!?うわぁ!」

意気揚々とカプセルを開けて袋を広げた。

「サンキューな!2人とも。やった〜!」

そんなに喜んで貰えると、返って冷静な俺らは引いてしまいます……。

アズマ君も同じ事を思ったのか、微妙な顔でウツミ君を見てた。

「ホントはアツシにも選んだんだけど、皆のが決まらないから止めたんだ。ごめんな?」

俺がアツシにそう言ったら、アツシは早速包みを開けて饅頭を食べてた。「いいのいいの」って笑いながら2つ目の饅頭を剥いてた。
アキラやヒロ君も饅頭に手を伸ばしてて、ヒロ君がオオサワ君やウツミ君に饅頭を投げて渡してた。

……皆、甘い物結構食べるんだなぁ。アズマ君は餡子は甘いからいらないって言ってたっけ。チョコも甘いのに変なの。


「ヤマナツ、BE LOVEの振り付け、オリジナルのやついけるか?」

衣装に着替えてスタジオへ歩いて行く途中に、ウツミ君に聞かれた。

「やるんですか?」

俺とアズマ君の不仲説が週刊誌に載ってちょっと騒ぎになってしまった時に変更になった。当初練習していた俺とアズマ君の絡みのアクロバットが入った振り付け。

「アキラとアツシはリハーサルしたけど、お前らはどうかと思って。」

オオサワ君が俺の肩に手を置いた。

「やりたいです!一回だけ宙返り練習させて下さい。」

振り付けは頭と身体に入ってる。大技だけ練習すれば大丈夫……多分。

「一回でいいのか?」

アズマ君が俺を見た。

俺はアズマ君の腕を掴むとスタジオへ走った。

俺達が歌うセットが用意されていて、ライトも当たってた。

俺とアズマ君は両手を繋ぐと、軽くストレッチをした。アズマ君と背中合わせになってお互いを持ち上げて背筋を伸ばした。俺が持ち上げられた時に、アキラとアツシが上下逆さまの視界に入ってきた。

「宙返りだけじゃなくて、前後も合わせとく?」

アキラがそう聞いてアズマ君が頷いた。

俺とアズマ君は顔を見合せて始めるタイミングを計った。

アズマ君に合わせて踊り始めると、アキラとアツシも入ってきた。

アズマ君はアキラの、俺はアツシの組んだ手に足を掛けると、宙返りをした。アキラとアツシが側転をした後、アズマ君と俺が連続バク転をして一旦決めポーズを取った後、ヒロ君とウツミ君とオオサワ君がフレームインする。

「オッケ!」

アズマ君がそう言って俺とハイタッチした。

アキラが立ち上がりながらアツシと衣装を直してた。

「ナツ君みたいな片手バク転してみたいなぁ。」

アキラが俺のフードを引っ張ってそう言った。

「アキラは手足長いからやったら目立つよ。練習したら?」

「俺もしたい。マイク置かなくていいもんね。」

アツシもそう言った。確かにマイクをフロアに置いてバク転とかした後、マイクを取りに行くのってちょっと間抜けっぽい。

「体重絞るか、腕鍛えねぇと怪我するぞ。」

アズマ君が俺達3人の後ろからそう言った。
「ヤマナツは軽いし、鍛えてるから出来んだよ。……っつかコレもっと上げとけ、バカ。」

俺の肩を掴むとアズマ君の方へ体を向かせて衣装のベストのファスナーを上げた。

「え〜、こんなに上げたらバランス悪いよ。」

上げられたファスナーをまた下げた。

「踊ってたら乳首見えるだろ?」

「はぁ??」

衣装は白いハーフパンツをサスペンダーで吊って、その上に白でフード付きのベストを素肌の上に着てる。因みに脛半ば丈の黒いブーツ。

アキラとアツシが吹き出して大笑いした。いきなりそんな事言うから、急に恥ずかしくなって顔が赤くなった。

「もぅ、信じらんねぇ!」

頬を押さえて顔を隠してアズマ君に文句を言った。

セットの周りで待ってたウツミ君とオオサワ君が歩いて来て、アズマ君の頭を叩いてた。

ヒロ君は呆れたように溜め息ついてた。俺の方に歩いて来ると、ベストのファスナーを少し上げた。

「ま、上げとけ。」

「…………。」

何で俺がこんな気まずい思いしなきゃいけないんだ……。



歌の収録はオリジナルの振り付けも間違えないで出来て、問題無く時間通りに終わった。

私服に着替えてたらアズマ君が「行くか?」って聞いてきて、頷いて返事した。

事務所にアズマ君の車が置いてあるから、事務所に帰るマネージャーと一緒に向かった。車を運転しているマネージャーに、ガトーショコラの美味しいカフェの話をした。

「あそこは、ミルクレープも美味しいんですよ〜。蜂蜜があっさりしてて、あれこそホールで食べたいくらい。」

ニコニコ笑いながらそう話してた。

「ミルクレープって何?」

アズマ君が俺に聞いてきた。

「クレープを何枚も重ねたやつ。間にクリームとかフルーツソースとか挟んで……。」

手を重ねるジェスチャーをしながら説明した。

「甘そ。」

一言そう言ったアズマ君に「甘いよ。」って笑って言った。

事務所に着いて、駐車場でそのままアズマ君の車に乗り換えた。車が動き出してすぐに秦さんの家に電話したら話中だった。って事は誰か居るってコトだよな?

「……なぁ、病院の近くってこの道でいいのか?」

アマナツの前に住んでたアパート迄は道が分かるけど、そこから秦さんトコへ歩いて連れてって貰ったから記憶が曖昧……。

「平屋の家……、なんだ。そんなに歩いてないからこの辺りだと思うんだけど。あ、アレかも。」

指差した先に塀に囲まれた家。灯りが付いてるからアマナツは居なくても秦さんがいるかも。

アズマ君は車の中で待ってる、ってロックを解除した。

もう夜の9時を過ぎてる。人の家を訪ねるには遅いから静かに歩いて呼び鈴を押した。

中から人が動いてる音がしたから声を掛けて名乗ったら玄関の引き戸が開いた。

「ナツキ、何で?」

びっくりしてるアマナツを見たら、もう会えないかもと覚悟してたから、思わず抱きついた。

「だって、あんな電話でお前と二度と会えないなんて嫌じゃん!」

一気に思いをぶつけたら、アマナツは俺の背中を叩いて「ごめん」って小さい声で言った。

「秦さん、昨日の夜倒れて入院したんだ。」

「え!?大丈夫なの?」

頷いて俺の腕を引いて玄関の中へ入った。

「入院して治療すれば治るんだって。だから、退院する迄留守番する……、それから出て行く。」

「秦さんが病気になったのはお前のせいじゃないんだろ?何でここに居られないんだよ。秦さんはお前ここに置いとくつもりみたいだけど?」

アマナツは俺から顔を背けると「ごめん」ってまた謝った。

「俺に関わると、皆に何か嫌な事が起こるんだ。……俺自体生まれつき運が悪いから。」

「ソレさ、何回聞いても信じらんない。気のせいだって。俺嫌な目に遭ってねぇもん。」

アマナツがサンダルを脱いで「上がる?」って聞いた。

「あ、アズマ君が車で待ってるんだ。お前に会えると思わなくて……。」

思い出して携帯をポケットから出した。

「……じゃぁ、また今度話すから。まだ暫くここに居るし……。」

「今聞きたい。ちょっと待って。」

そう言って玄関から出て、アズマ君の車まで走って行った。

「アズマ君、アマナツ居たからちょっと話したいんだけど、」

窓を開けたアズマ君は、頷いて「帰る時電話しろ。迎えに来るから。」って言って車のエンジンをかけた。

「ナツキ!」

後ろからアマナツが俺を呼んだ。

「また今度話そう?今日は吾妻と一緒に帰って。」

アズマ君は車から降りると俺の頭を撫でながら、アマナツに話しかけた。

「こんばんは、吾妻です。このまま帰っても、こいつ気が済まないから。それにヤマナツこれから忙しくなるから暫く来れないかもしれないんだ。」

優しく話すアズマ君を見たら、目が合って頷いてた。

「……ピアノの仕事する事になったから……。多分休みずっと無い。」

俺がそう言ったらアマナツはアズマ君と俺の顔を見て家を指差して、

「じゃぁ、吾妻……さん、も一緒にどうぞ。車も中に入れて下さい。」

アズマ君は俺を見ると耳元に小さい声で「俺、最初呼び捨てされてた?」って聞いてきた。俺は笑いながら「俺にチュウしやがったからだよ。」って言っといた。


玄関を入ってすぐ右側にある座敷を指差して「座ってて」って言って奥に入ってった。

座りながら俺に「家主は?」って聞いたアズマ君にさっき聞いた事を話した。

「病気で入院したんだって。だから暫く留守番するからまだ居るんだって。」

麦茶を入れたコップを持ったアマナツがアズマ君をじっと見てた。

「……何か、凄ぇモテそうなのに、……何でナツキと付き合ってんですか?」

モテそう、って……。一応、芸能人でアイドルで人気高い方だと思うから、モテるとは思うけど。

「俺がヤマナツを口説いたんだよ。」

そう言って俺の腕を肘で突いてきて「渡したか?」って聞いた。

「あ、コレ……お土産。」

鞄から今日駅で買った地域限定じゃがりこを出した。

「な、何だコレ!初めて見た!」

アマナツは箱を受け取ると目をキラキラさせてた。

「アマナツ、俺に話す事あったんじゃねぇの?」

「あぁ、うん……。」

俺がアマナツに話しを切り出したら黙り込んでしまった。

「……ねぇ、ナツキ。やっぱり今日は話すの、止めようぜ?」

そう言ったアマナツは少し笑ってた。

「俺、ハタさんにもちゃんと話すから。同じ事、ナツキにも後で絶対話す。」

真っ直ぐに俺を見てアマナツが言った。

「……秦さんに先に話したいんだ?」

俺が聞いたら頷いてた。

「分かった、待ってる。……でも、あんまり待たせんなよ。」

机に両手で頬杖をついて俺が口を尖らせて言ったら、アマナツが「変な顔」って笑った。

「で?ナツキは?何か俺に吾妻の愚痴聞いて欲しいんじゃ無かったのか?」

アマナツが意地悪そうに俺を見た。

「ば、バカ!」

慌てた俺は膝で立ち上がると、アマナツの口を押さえた。

「へぇ、何?俺も聞いてやるよ。」

隣に座ったアズマ君が笑顔で俺を見てた。

「……違うから、あの…」

俺は変な汗をかきながらそう言った。アマナツが俺の手を除けて「ごめん、内緒だった?」って白々しく言った。

「あぁ、もぅ!帰る!」

そう言って立ち上がってアマナツの頭を叩いた。

玄関で靴を履いてたら、アマナツが「絶対連絡するから。」って俺に言った。

「じゃあまたな。」

俺は頷いて手を振った。

アズマ君の車に乗って、車が車道に出ると、アズマ君が俺に言った。

「家に電話しろ。今日遅くなるって。」

「………。」

俺が何も言えないでアズマ君を見てたら、胸元を掴んで引き寄せられてキスされた。

俺はポケットから携帯を出してボタンを押した。






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