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S☆Ρ
8-4・黄色いさくらんぼC




身体が……、っていうか腰が凄く怠い……。

「手伝ってやろうか?」

ベッドに座って服を着てた俺の動きがぎこちないのに気付いたアズマ君が、手を伸ばして立たせてくれて、イージーパンツを上げた。

Tシャツを着ると、パーカーを渡してくれた。

「ありがと、大丈夫だよ?」

袖を通したらファスナーを上げてくれようとしたアズマ君にそう言った。

「……ちょっといい?」

そう言って、俺の身体を後ろ向きに回れ右させると、背中から抱き締められた。

アズマ君の腕がお腹に回されて、前が開いたパーカーの合わせから入り込んだ手が、滑るようにTシャツの上を撫でた。

胸の辺りで手が止まると、Tシャツごと乳首を摘まれた。

「んっ、」

身体に電気が流れたような感覚がして、体を前に屈めた俺を、ベッドに俯せに倒された。

アズマ君が後ろから抱き締めたまま耳に話してきた。

「感じるようになったんだな、ここ。」

え……?。

親指の腹と、人差し指の爪や関節横で捏ねるように優しく揉まれて、小さく凝った俺のソレを擽るようにした。

「今度、たくさん可愛がってやるからな。」

そう囁いてアズマ君は身体を起こして離れた。

顔が熱い。きっと顔赤くなってる……。

俺、こんな身体になってどうなっちゃうんだろ……。








番外編

秦克成×天野夏生 





「こんにちは。」

病院の個室のドアを開けて、挨拶をして中に入った。

「ナツ。」

ベッドに座って胡坐をかいてその間にノートパソコンを開いて置いている病人。

「……仕事好きみたい。」

天野夏生は呆れたように溜め息つきながら言った。

「仕事をするなと言われたら仕事がしたくなるもんなんだよ、人間ってやつは。」

「じゃあ家でも、仕事するなって言おうか?」

皮肉を言った天野に、秦克成は自嘲気味に笑ってパソコンを閉じた。

「毎日悪いな。勉強は大丈夫か?」

「何言ってんの?もう夏休みだし。大学生の夏休み舐めちゃだめだよ。」

紙袋からタオルや着替えを出しながらそう話した。

「ナツは頭いいんだったな。羨ましいよ、俺なんかレポートに追われて……結局辞めたしな。」

天野は中身が空っぽになった紙袋に、洗濯物を入れた。

「頭がいい訳じゃなくて……、」

「記憶力がいいんだろ?それが羨ましいんじゃないか。」

天野は何かを言い掛けて複雑そうな顔をした。秦はそんな天野の手を掴むとベッドの端に座らせた。

「……いくら色んな事を覚えたって、頭の中にしまっておく事しかできない。」

秦の顔を見て、続けて話した。

「ハタさんみたいに何かを想像して文章を書くなんて俺には出来ない。」

秦は頷いた。

「ナツキみたいに……、曲や楽譜を覚えて頭に残しても、それを弾いて表現する力は俺には無い。」

秦は天野のコンプレックスを薄々感じていた。

「いくらテストで満点を取っても中身は無いのと同じ。……こんな才能ならいらない。」

「ナツは、山本君のピアノが好きか?」

秦が天野の頭を撫でて聞いた。頷いた天野に続けて問いかけた。

「じゃぁ、俺の本は面白いって思うか?」

秦の顔を見つめたまま頷いた。

「好きだとか面白いとか思う感情はあるんだな?ならそれでいいんじゃないか。お前みたいに一度見たり聞いたりした事を記憶していられるっていうの、まず無いと思うぞ?」

天野は口答えしようと口を開いたら、秦が先に話を続けた。

「現に山本君だって、そのピアノの才能があるのに、アイドルを仕事にしてるじゃないか。」

天野は口をつぐむと、ベッドから立ち上がった。

「昨日、……ナツキが吾妻連れて来た。」

鞄からお菓子を出して秦に見せた。

「温泉行ったんだって。お土産貰った。」

天野の手に持ったお菓子を見て秦は笑った。

「山本君はナツを良く分かってるなぁ。で?吾妻君はどうだった?いい男だっただろ。」

笑いながらマグカップに入ったお茶を飲んだ秦に、天野は小さい声で言った。

「……何か……隠してるっていうか、裏があるっていうか。ナツキにいい人ぶってるみたいな……、」

「初対面だろ?」

頷きながらお菓子の箱を開けると、言葉を選んで考え込んだ。

秦は腕を組むと、何かを思い出したように呟いた。

「……吾妻和臣を演じている、って所か?」

「あ、近い。何で分かったの?」

秦は天野に手を伸ばしてお菓子を一袋貰うと、バリッと音を立てて袋を開けた。

「……退院したら、俺達も温泉行こうか、ナツ。」

「は?1人で行ったら?俺また留守番しといてやるから。」

秦は冷たく言い放つ天野に苦笑いしながら、先程の話題に上った吾妻和臣を思い出した。

天野に付き合ってテレビを見ている内に何となく感じた吾妻和臣という人物の印象を頭に浮かべた。

「……ナツに見透かされる位なら、山本君とも長続きしないだろうね。」

「え?ナツキが何?」

「いや、何でもないよ。山本君にまた会いたいな、と思って。」

天野は何故秦がそんな事を言うのか不思議に思ったが、次に言った秦の言葉に心底呆れるのだった。

「アイドルだけあって、可愛かったよな。あ、男の子だっけ。」

「ナツキに来るなって言っとく。」

天野は親友の顔を思い浮かべた。

決して女顔ではないし、一緒の制服を着て同じ教室にいる時の山本夏希は目立つ存在ではない。ただ、整っている顔なのだ。

その整った顔の表情が笑ったり真剣な顔をすると、アイドルのヤマナツになるのだ。

「俺は山本君よりもナツの顔の方が好きだな。」

「またそんな事言って。そういうのは男に言う言葉じゃないですよ。」

秦は笑いながら、あーぁ、と溜め息をついた。

「………ハタさん、退院したら、……話したい事、あるから。」

「……うん。分かった。」

空になったお菓子の袋をゴミ箱へと捨てると、冷蔵庫からペットボトルのお茶をだした。

「おかわりいる?」

「うん、ありがと。」

マグカップを差し出して天野にお茶を注いでもらう。

秦にじっと見つめられて指先が微かに震える理由を、天野はまだ理解しようとしなかった。



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あきゅろす。
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