新月を追って
9
「にし……中西っ」
ふと敦志が目を覚ますと目の前に人の顔があって思わず叫びそうになり、とっさに自分の手で口を塞いで押さえた。その人が直哉であることには意識が明確になるのと同時に分かったのだけども
「吃驚した…」
「ごめんな」
まだ眠いのかあくびを繰り返す敦志をそろそろみんな起きるし、と直哉は外に連れだした。
廊下は灯りは消えていたが窓から差し込む光で十分明るかった。人気もなく静まり返った廊下をスリッパでぺたぺた歩きながら廊下の端まで行き、片隅に設けられた長椅子に座った。
丁度窓もなく薄暗かったが近くに自動販売機があって、その明かりでお互いを確認する
「すいません、つき合わせちゃって」
目が合うと敦志はとにかく謝った。一緒に寝たり、早く起きさせたりしてほんとうに申し訳ないと想った
「気にするな…それより何があったんだ?」
「え?」
「同じ部屋の人と…なんかあったんだろ?」
それはあくまで優しい問いかけだったけれど敦志にとって傷を抉られるような質問であることに代わりはなかった。昨日のようにやはり、その口から言葉が出ることはなかった。
しばらくして廊下をスリッパで歩く音が聞こえてきた。近づく足音にも直哉にも目をくれず敦志は言葉もなくただ足下を見て座っていた
随分足音が近くなった時
「中西っ」
名前を呼ばれ不意に顔を見上げると敦志が最も会いたくない人物がそこにはいた
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