新月を追って
10
―――バンッ!
箸をお膳に置いたのだろう、大きな音がしてその場が静まり返り、音の発生源に一斉にみんなの視線が向く…そこにいたのは直哉だった。
だが、みんなに見られていることに気付いていないのか、ゆらりと立ち上がって周りに目もくれずに大広間を出て行く。
大広間の襖が大きな音を立てて閉められるとざわめき声が一斉に溢れた。
「なんか…あれ、重症だなー」
「だねぇ、アレはやばい」
「え……先輩まさか」
思わず口をついてでた千田のつぶやきに、松島が同意する。
同意されたことに驚いて松島を見ると、唇に人差し指を当ててシーッと言われた。
松島は千田と同じように、"直哉の恋心"を見抜いているというのだろうか?
千田が何かを言おうと口を開きかけた時、
「何話してるんです?二人して…」
当の張本人の敦志は何のことかもわからず、怪訝に二人をみてきた。
「なんでもないよっ……それより、俺たちも部屋戻ろう、ね?」
敦志の方に振り向いた松島は、何事もなかったかのように笑顔で敦志を抱き寄せる。
腰を抱き寄せられ、耳にキスされ囁かれる、そんな一連の動作をそつなくこなされると抵抗する間もなく敦志はただ、頷いていた。
松島は敦志を連れて立ち上がると、強気なのにどこか悲しいような表情をして大広間を出て行った。
―――分かってて、それでも松島さんは、あっちゃんと?
残された千田は腑に落ちないような不満げな顔をし呟いていた。
「それでも、俺は……直哉さんの味方だかんね」
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