新月を追って
7
監督の言葉に俄かに辺りがざわつく。サブ組からしたら大きなチャンス、レギュラー組には危機であるわけだ。
近くに立っていた直哉も喜んでいるだろうと視線を向けると話を聞いていなかったのか、視線を伏せたまま呆然としているようだった。
思わず名前を呼びかけたとき、急に手を引かれ振り向くと
「ミニゲーム、はじまっちゃうよ」
松島がわざとらしいくらいの笑顔を浮かべて、掴んだ敦志の手を引き寄せた。引き寄せられるまま松島の方に2,3歩よろけるとほとんど皆が自分のポジションにつきつつあり、確かにミニゲームの開始はすぐのようだった。
慌ててセンターサークルまで走りだすと程なくして直哉も気付いたのか、そう差もなく二人は位置についた。
――ピーーーッ
ホイッスルの音と共に走り出すと程なくして、レギュラー組のフォワードからするりとボールを奪ってそのまま走っていく直哉の背中を敦志は追いかけていた。
直哉を止めようと何人かが走り寄っているのをみると
空いてるスペースに走って行き、パスを要求するために直哉の名前を呼ぶ。
いつもならパスが出せることに気付くと頼ってくれるのに、その日の直哉は何故か、敦志を見ようともしなかった。それどころか周りすら見ようとせず、何度ボールを取られてもまるで苛立っているように強引に突破しようとするだけだった。
サッカーはチームプレイであり、個人プレイで勝利を勝ち取れる程のプレーヤーは限られる。
当然、その日のミニゲームもサブ組は不甲斐ない結果しか出せなかった。
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