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新月を追って

 あれから一ヶ月は経った頃、敦志は合宿に向かうバスに乗っていた。低いエンジン音を聞きながら窓の外を流れる景色を眺める。
 部室での交際宣言は翌日にはクラス、恐らくは学校中にまで知れ渡ってしまった。
 "あの松島を射止めた"ということもあり敦志の注目度は格段に上がったようで常に誰かに見られている気配に疲れさえ感じ始めていた。
その上、

「なっかにっしちゃん」

語尾にハートを散らしてそうなご機嫌な声色で呼びかけられ突如、松島に頬にキスされるなんてのも日常茶飯事になりつつある。
 人目につくところでキスはやめろと何度言っても聞かない事に敦志はほとほと疲れ果て、最早文句を言う気力もないようだ。
でも、とりあえず拳だけは振り上げてみる。

「えー、怒るようなことしてないのにー」
「もうっ…なんですか急にっ」
「中西ちゃんが相手にしてくんないからつまんない」

 唇を突き出して拗ねたかと思ったのも束の間、松島はそっと敦志の頬に触れると緩やかでいて逆らえない動きで松島の方を向かせる。
 思わずされるがまま見つめ合わされると敦志はくちづけられてしまいそうな雰囲気に慌てて松島を押しのけた。

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あきゅろす。
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