新月を追って
3
「お前、何がいい? 今日おごってやるよ」
店に着くなり、そう笑みを浮かべる直哉がまるで以前のままで、現実だとわかっていてもやはり夢でも見ている気分になり、敦志はじっとその顔を見つめてしまう。直哉は少し照れくさそうにした後
「……決めておけよな? お前いつも長いんだから」
笑いながらレジの列が進んで一歩前に進む、その後姿も、この店も何もかもが泣きたくなるくらい幸せなひと時を思い出させる。
胸がいっぱいになって敦志は店員の頭上に明るく照らされているパネルを見上げることが出来なかった
意を決したように直哉に追いついて制服を掴むとクイクイッと引っ張り、小さい声で
「い、いつもの……やつでいいです」
それに気づいて振り返った直哉は不安げに見上げてくる敦志に大丈夫とでもいいたげに笑みを浮かべる
「いつものってアップルパイとシェイク? バニラ味だろ?」
いつもの、というのを分かってくれた。ただそれだけなのに嬉しくて敦志の不安げだった表情はみるみる笑顔になってコクコクとうなづくと、軽く頭を撫でられてしまった
「子供扱いっしないでくださいよ……」
「ははっ中西は席とって待ってて」
「はい!」
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