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新月を追って

 手早く顔を洗ってネクタイと格闘しながらリビングに行くとテーブルには既に焼きたての食パンが用意されていて、それを齧り玄関に向かいながら鞄を手にとりネクタイを結び続ける為に脇に挟む。
 そうしてまで結ぼうとしているのに一向に満足いくものにならないネクタイ、更にそのままスニーカーを履こうとする敦志に

「なにやってんだか…」

 相変わらず呆れた様子で背後から敦弘が声をかけてくる。思わず振り返った敦志が食パンをくたえたままだったことに敦弘は噴出し

「バカじゃんっほら、貸せよ」

 あっという間に近づいてきた敦弘に手の中にあったネクタイを奪われる。驚いてネクタイと敦弘の手に視線を落としていると、どうやら結んでくれるようだった

「あぅばぼ」
「いいからそれ早く食え」
「んー」

 大人しく食パンを食べ始める敦志。普段ならばネクタイは一応結べるのだが今日はまだ眠気が取れていなかったらしい。パンを噛んでいても、やはり眠気はとれなかった

「ほんっと…ありが、とな」
「いいよっーか、食いながらしゃべんな!」

 仕舞いにパンを手に持ち、しゃべりながらそれを口に運ぶ敦志を敦弘は軽く叩いて、さっさと行けと家から追い出してしまった

「お、追い出すことないじゃんかっ」

とバッタリ閉められた扉に叫んでも空しい。諦めて2,3段しかない階段を降り、道路に出ると微かな風が吹き抜けただけで蒸し暑かった、憎らしいほどの青空を見上げた
 蝉の鳴き声が音を全て掻き消す勢いで唸り上げる。夏は更に暑さを増そうとしていた

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