新月を追って
8
何気なくロッカーを開けながら、こみ上げてくる涙を耐えるのに必死だった。
何事もなかったかのように"日常"を営み続けるここで泣くことでそれが崩れ去るのは目に見えていた。
耐える必要があるかさえ分からなかったが震えそうな唇を噛みしめていた
どのくらいそうしていたのだろうか、随分何もせずにそのまま立ち尽くしていると半開きだったロッカーの扉が突然押し開かれて隣のロッカーに重なる
そのままロッカーの扉を押さえる腕をぼんやり見つめる敦志に頬にキスをされるかと錯覚するほど唇が近づいてきて、囁いた
「思ったよりひでぇ奴だよな、直哉って」
弾かれるように視線を向けると外村がさも面白そうに見下ろしてくる。
驚きと何故だか怒りに言葉が出ない敦志に構わず、外村は嘲るような口調で続けた
「避けることねぇのに、あんなことで」
「あん…なこと?」
瞬時、直哉が松島との関係を知った事であると分かり、お前っと短く叫びながら敦志は外村の胸倉を掴み上げる。その勢いで外村は背中をロッカーに叩きつけた。
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