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新月を追って

「まっ…待って!ほんっとごめんってば」

 だが、手首を強く掴まれ敦志は再び立ち止まった。振り返れずにいると背後から

「お願い…嫌いにならないで」

 すがるような声に目を見開く、途端にまるで神に祈るような自らの願いに重なった

―――嫌いにならないで…お願い

 その為になにかを差し出せと言われたら躊躇いもなく差し出せるくらい切実に願った自分と松島はきっと同じ気持ちなのだ。
 掴まれた手を振り解くことは出来なくて、ただただ迷いに揺れる瞳が潤んでいく

「中西ちゃん…」

 緊張か、掠れた声で呼ばれ敦志は何も考えられぬままに振り返った。
 視界に松島の不安げな表情を目にするといつの間にか呟いていた

「嫌いになんか…なれるわけないじゃないですか」

 自分が欲しかった応えのような呟きを自分が言ったようには思えず、敦志は目を伏せながら何処か他人事に聞いていた。
 ふと、再び名を呼ばれ弾かれたように視線を上げると松島が嬉しさと悲しさが混じったような穏やかな笑みを浮かべて、見とれる敦志の手に温かなものが触れた。


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