新月を追って
１３
ここからどうやって帰ろうとひそかに考えていると直哉が敦志の目の前に自分の傘を差し出しながら
「中西傘持ってないだろ、やるよ」
「え？…でも、直哉さんは？」
「俺は濡れてもいいし」
「良くないですよ！俺、近いし…いいです」
本当は近くはなかったが傘を借りることで直哉を
濡れさせてしまい、風邪を引かれたらと考えるととても借りることは出来ず、嘘を吐いてその傘を直哉に弱い力で押し返すと
「俺、もう帰らなきゃっ…今日はありがとうございました。美味しかったです、お疲れさまでした」
口早にそう言いながら一瞬本心からの笑顔を浮かべ一礼をして敦志は未だ雨の降る外へ駆け出していった。背後からお疲れと直哉の声がしたが敦志は立ち止まらず走りながら振り返って心持ち頭を下げた
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