空色少女 89 キング 「あ…!オレンジの火!」 なんとかまたXANXUSの手から逃れて綱吉は見た。紅奈の額にはいつか見た炎が。 XANXUS達も目にしたのは、2度目だった。 世界を見透かすような瞳と目があったら心の奥底まで見透かされているような錯覚に落ちる。 額の炎は紅奈の意志の強さを表すように燃えていた。 その容姿は特別な存在だと戒めるかのよう。誰にも否定はできない。 凛々しく美しい存在。 初代ボンゴレに似た炎。 それが紅奈の額から消えた。 「あたしが10代目ボスだ」 無情だった紅奈がフッと笑みで見下し言った。 変わらない揺るぎのない強い意志。 自信に溢れた微笑。 小さな身体には不釣り合い。 不敵、しかし挑発した笑みじゃない為、不快には思わなかった。 その瞳は澄んでいて美しい。 ベルは口を開けたまま思わず見とれてしまった。 「お前の敗けだ、ベルフェゴール」 告げられてハッと我に返るベル。敗けなんて、認めたくない。力を入れて起き上がろうとしたが無理だった。 変わらず紅奈は続ける。 「約束通り。あたしの部下になれ、切り裂き王子」 紅奈のその言葉にベルは動きを止めた。呼吸さえも止めて、その言葉を頭の中で繰り返して解読する。 下僕ではなく部下。 否、下僕=部下なのか。 「お前の世界のキングはあたしだ」 「!」 「キングの命令は絶対な?」 ニヤリッ、と紅奈は笑う。 ゾクゾクッ 身体中に興奮が走るのを感じた。何だこの感じ。 もう一度、紅奈は告げた。 「あたしがボンゴレ10代目だ」 嗚呼わかった。 この興奮は紅奈のせいだ。 威圧感と存在感。 紅奈の言葉も、その強さも、ゾクゾクと興奮させる。 まるで駆け回るように血が騒ぐ。 面白い。面白い。面白い。 未来<サキ>がすぐに、今すぐにでもみたい。 紅奈の率いるボンゴレがみたい。 もっと強くなった紅奈がみたい。 紅奈に、ついていきたい。 この人についていきたい。 そう思えるのが、ボスの魅力だ。 そうやって仲間が、ファミリーができていく。 カクッと限界がきてベルは返事もしないうちに意識を手放した。 紅奈の勝利だ。 予想もしなかった発言にXANXUSとスクアーロはポカーンと口を開いたまま立ち尽くしていた。 紅奈はそんな二人にフッと微笑を向ける。 二人もまた紅奈のボスに魅力に当てられたからこそついてきた。 彼女の強さを再確認した。 「あらーん?もう終わっちゃったの?」 不意にその場に響いた声に一同は注目した。 サングラスを賭けたと男と無愛想な顔の男が扉を開いて入ってきた。 「ルッスーリア…レヴィ……」 「ゔぉおおい!勝手に入ってきてんじゃねぇ!!」 つかさずスクアーロが叫んだ。 「あらぁ、入るなって貼り紙はなかったわよ?訓練所を貸し切りで新人と勝負させてるってきいたから見に来たんだけど…もう終わっちゃったのね」 残念、とお姉言葉でルッスーリアは言った。見るのは紅奈と倒れたベル。 「ルッスーリア、怪我の手当てをしろ。この餓鬼も連れてけ」 「あら、何この筋肉のない生物は」 子供だ。 XANXUSはルッスーリアに綱吉を押し付けた。 「そこの、おっねぇーさん。この子先にお願いしまぁす」 紅奈は無邪気を振り撒いてルッスーリアを呼んだ。 「あらっ!いい子じゃないの!」 すぐにルッスーリアは綱吉を抱えながら紅奈の元に向かった。 それとは逆にXANXUSは背を向ける。 「ゔぉおおい!XANXUS!どこいく!?」 「レヴィ、ついてこい」 「は、はい」 スクアーロの呼び止めもきかず、XANXUSはレヴィを連れていってしまった。 紅奈は首を傾げた。 「ふぅん……これは面白くなりそうだね」 そこに声がしたことは、誰も気付かなかった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |