[通常モード] [URL送信]

空色少女
56



「そんな苦悩してる顔をしないでください…よかったら話してください」

「……」


話す、か。


「…君は彼らと生き抜くことだけを考えて。………あたし、帰らなくちゃ」


申し訳ないと思いつつ立ち上がる。


「帰る家があるんですね…」

「………また会える?」

「…会いに行きます」

「ううん、あたしが会いに行く」


首を振って言う。
骸は少し紅奈を見つめた。


「…わかりました。ここで待ち合わせしましょう」

「またいつイタリアにこれるか、わからない」

「待ってますよ。僕と君は似た者同士ですから、気が向いた時ここにくればきっと会えます」


骸は微笑んで立ち上がってそう言った。
確かに、会える気がする。


「ど、どこいくんだよ!?」


声をあげた犬に振り返る。
千種も手を止めて紅奈を見上げていた。


「またな」


にこっ、と紅奈は笑いかけて手を振ってその場を後にする。


夜のイタリアの街を歩いていく。さっき来た道を歩きながら考えた。
これからどうしよう。


どうすればいいんだろう。


どうすればいい?
綱吉…


「「ばかやろうっ!!!」」


ぼんやりと夜空を見上げていれば目の前に車を停まって窓からXANXUSとスクアーロに怒鳴った。


「・・・迷子になってました。」

「嘘つけぇ!!お前そんな餓鬼じゃねぇだろうぉおい!!」

「車で待ってろと言っただろう!!」


白状したのに信じてもらえず、掴まれて窓から車に引っ張りこまれた。


「片付けは終わったんだ」

「とっくに終わってる畜生!!」


何故かXANXUSが運転席にいる。紅奈は助手席のスクアーロの膝の上。

ハンドルを回してスピードを飛ばしていく。


「あれ、ケイタイ鳴ってるよ」


スクアーロとXANXUSのケイタイが何故か後部座席で鳴ってる。


「てめぇの親父からだ」

「…殺される」


心なしか青ざめてる二人。
いないことに気付いて家光が血眼で探していそうだ。

おまけに刺客騒動の最中だ。


隠しきれないほど紅奈はボロボロ。確実に家光が激怒するだろう。


「あたしは気を失って何も知らないことにしろ。寝る」


眠りやすいように体制を変えてXANXUSに背を向け、スクアーロの腕を抱きしめ目を閉じた。


「お、ぅおい」

「煩いスク。黙ってろ」

「う゛っ」


紅奈はスクアーロに刺々しく言った。スクアーロは硬直する。


「そうじゃない、黙って抱き締めてよ。眠りやすいように」


抱き締めさせるように両腕を掴む。
スクアーロは戸惑ったが黙って紅奈の身体を包んだ。


これなら眠れそうだ。
身を委ねた。


「…………おい、紅奈」


XANXUSが呼ぶ。


「XANXUS、オレを乗せて事故る気か。安全運転しろ」


紅奈は鋭く言った。


「てめぇのくそ親父に急かされてんだ!!」

「くそ親父はあたしが無事さえいいんだ!無視しろ!」

(くそ親父は訂正しないのか…)

「このわがままなくそ餓鬼が!!」

「元はてめぇが撒いた種だろーが!もう黙れ!寝る!!」


紅奈は明らかに不機嫌だった。スクアーロにしがみついてそれ以上しゃべらない。

XANXUSも不機嫌になり口を固く閉じてギリギリのスピードで車を飛ばした。


着いた頃には紅奈は疲れきって眠りに落ちていた。


待ち構えていた家光に真っ先に掴まれる。


「スクアーロ!!」

「しーっ!寝てんだよ!」


慌ててスクアーロは声を潜めて言う。腕に抱える紅奈を起こしたくない。


「顔に傷が…」


あるじゃないかぁあ〜!!鬼のように睨み付ける愛する娘の父親。


「使用人の女が撃った。刺客は始末した、てめぇの娘は知らねぇ」


XANXUSは短く言って歩き出した。

家光は直ぐ様紅奈をスクアーロから奪いXANXUSを追い掛ける。

スクアーロは取り残された。


「……」


紅奈の温もりが残っている腕を見る。
曖昧な感覚に首を傾げた。


紅奈のことを子供扱いしているのに、時折子供扱いを忘れる。

無知の子供だが、ボスになるのだから当たり前と無意識にやってしまっているのか。

言動に動かされてしまうせいか。


時折、子供だと忘れる。


だが抱えた彼女は確かに子供だと、痛感した。


どう扱えばいいのだろうか、わからなくなる。

スクアーロは顔を上げて夜空を見た。


確か、見つけた紅奈も空を見上げていたっけ。


その顔が切なかった。


手を重ねて微笑んだ時と同じ。
似たような切なそうな顔をしていた。


しかしあの時はもうちょっと、なんだか………。
穏やかで、愛しそうだった。


先程の顔は、今にも消えてしまいそうなほど儚かった。


オレはアイツを支えられるだろうか…




 


[*前へ][次へ#]
[戻る]

[小説ナビ|小説大賞]