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空色少女
266










目を開いた。
これは現実。
家光と奈々と綱吉の顔が一番に飛び込んだ。

周りに目を向けて現状を把握する。

どうやらホテルの部屋のようだ。


「ごめんなさい……心配かけて」

「謝らないでいいのよ、大丈夫?コーちゃん」

「コーちゃん…」

「大丈夫。少し疲れただけ」


起き上がって綱吉の頭を撫でる。


「ここはハワイ?」

「ああ、今日は休んだ方がいいって医者が言っていたから寝てろ」


家光が紅奈の頭を撫でて寝かせようとしたが紅奈は首を横に振る。


「まだ夜じゃないんでしょ。もう大丈夫だから、行ってきなよ」

「でも…」

「初日は観光するんでしょ」


そう言われても紅奈を置いて観光を楽しめるわけがない。
家光と奈々は顔を見合わせた。


「ぼく、コーちゃんといるから。お父さんとお母さんはいってきていいよ!」


綱吉が言い出すものだから紅奈は目を丸める。


「ツナくんも行ってきなよ。ホテルの部屋だけじゃつまらないよ」

「コーちゃんといっしょなら大丈夫っ!」


にこっと綱吉は無邪気に笑った。

綱吉の笑顔には癒されるが、今回ばかりは紅奈は肩を竦める。


「わかった。じゃあこうしよう。少し休んでからツナくんと行くから、お母さん達は先に行って」


綱吉までハワイまできてホテルにこもらせるのは悪い。


「どこかに待ち合わせればいけるよ。あたしはそんな子供じゃないから、二人は先に行ってデートして」

「そう…なら…」


デートと聞いて奈々は照れた顔をする。

異国の地で幼い息子と娘を二人きりで置いていくことに不安を覚える家光だったが、そんな奈々を見て鼻の下を伸ばした。


いつまで経ってもチョロい二人だ。


紅奈がしっかりしていることはよくわかっている両親は信用して集合場所の地図を書き残して先にホテルを出た。


「…ふぅ……」


息を吐く紅奈は服を着替えようとしたが、ベッドの上でぼんやりしてしまう。


─────孤独に負けるなってーの…


髪を掻き上げて吐き捨てる。


もう戻れない。

戻れやしないんだ。

同じ過ちをするな。

あいつらをこれ以上苦しめるな。



「…コーちゃん…?きもちわるいの?」


支度を進めない紅奈に気付いて、綱吉がベッドに乗り込み顔を覗いてきた。


「……大丈夫だよ、ツナくん」


紅奈は微笑んで見せる。

それを見て安心した綱吉は笑った。


あたしは孤独じゃない。
綱吉がいるのだから…────。











着替えてから紅奈は綱吉と手を繋いでホテルを出た。

ハワイは冬でも気温は下がらないので過ごしやすい。
薄手の上着を羽織るくらいが丁度いいのだ。


「わぁ、すごいね!あったかいね!」


と綱吉は興味津々に周りを見渡す。

気温差にやられて風邪を引かないようにしないと、と紅奈は対策を考えた。旅行中は奈々と綱吉を楽しませないと。


「……」


視線を感じた気がして紅奈は振り返る。
振り返れば視線は消えた。

誰も見ていない。


気のせいか…。


前を見て歩く。
また視線を感じて、足を止め振り返る。

また視線は消えた。


(…跡をつけられてる)


紅奈は綱吉の手を繋ぎ、また歩いていく。

わざとらしい尾行。
気付かせるような行為だ。

これは挑発にもとれる。


こんなことするのは誰だ…?


久々に実践ができそうな予感だが、綱吉を巻き込むのはだめだ。

敵になるような相手は、心当たりがない。

相手が予測もできないのなら、迂闊に対抗するのはよくない。


尾行を撒いて家光と合流すれば、彼が片付けてくれるだろう。


紅奈は入れる建物を見付けて、綱吉を引っ張って入った。


そこは銀行。


それが悪かった。

綱吉を危険に晒さないようにした行動は、逆に自ら手を繋ぎ一緒に危険の中に飛び込んだ。


銀行の中で大人達が膝をついて踞っていた。

立っていた数人の男達は黒いマスクを被っていて、銃を人に向けている。


それが紅奈達に向けられた。


一人の男が聞き取れない言葉を叫ぶ。


言葉が理解できなくてもこの状況は理解できた。





銀行強盗の真っ最中だ。





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