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空色少女
261 決意









「……………コウ…?…紅奈?」


久しぶりによく寝たと思った次の瞬間、ベルは紅奈が隣にいないことに気付き飛び起きる。


紅奈と綱吉はいない。

慌てたがランドセルがないのを見て、二人が学校に行ったと気付く。


「…学校ぐらい休んでオレの相手してくろよ……キング…」


ばたん、と倒れてベルは一人呟いた。


「…………」


寝返りをうち気付く。


(…紅奈の匂い)


思わず口元が緩んだ。



奈々が用意した朝食を食べてから、ベルは出掛けた。
暇潰しを探しに。

部屋に籠るのは嫌だ。


しかし平凡な日本の住宅地に、暇潰しになるものなどない。


暇潰しを探ことに飽きてきた頃、ベルは紅奈の学校にいけばいいじゃんと思い付いた。


クルリと後ろを振り返ったが、ピタリと止まる。


(…………紅奈の学校知らね)


紅奈の学校どころじゃなかった。

ここは一体何処だ?


適当に歩きすぎて紅奈の家がわからなくなった。


「迷子じゃねーし」


誰もいないのに否定をしてとりあえず来た道を引き返す。


住宅地はどれも一緒に見えるため、本当に戻っているか定かではない。


「お」


暫くしてベルは見覚えのあるものを見つけた。


一瞬、紅奈だと思ったが紅奈は今髪が長い。

前は遠目では区別つかなかったが、髪型が違う。


綱吉が正一と二人で歩いている。


「よー、綱吉」

「あっ、王子サマ!」


ベルから近付き話し掛ければ紅奈とよく似た顔で綱吉は笑顔を向けた。

顔が似ていても、ベルが見たい紅奈の笑顔とは違う。


後ろを見ても、その目当ての紅奈は見当たらない。


「なぁ、紅奈は?」

「コーちゃん、帰ったよ」

「え?」

「コーちゃん、またカゼひいちゃったんだ」


悲しげに俯く綱吉を、ベルはポカーンと見た。






綱吉についていって沢田家に戻れば、紅奈は既に家に帰っていた。


家光がいる間、気を張っていた紅奈は気が緩み、熱を出したのだ。

また無理をして学校に行ったが、正一が気付き担任が奈々に連絡して早退させた。


部屋にはベッドに横たわる紅奈。


(まじで病弱なんだ…)


普段の紅奈しか知らないベルにとったら、その姿は信じられない。

病弱なんて、無縁な言葉。
それは単なるイメージであって、実際はこの通り。


熱を下げるためにシートを額に貼り付けた紅奈は、少し荒い寝息を立てて汗を流していた。


(これを見て、ボスは………決めたんだ)


ベルは椅子に座り、紅奈を見つめる。


弱い紅奈を見て、決意をした。


(……オレ、わかんない)


XANXUSとスクアーロと同じ椅子に座り、同じく熱に魘される紅奈を見ていてもわからない。


弱い紅奈を見ても、気持ちは揺らがない。


紅奈がキング。


それは変わらない。


この弱さが、キングじゃない理由にはならないのだ。


「……紅奈」


手を伸ばして紅奈の頬を撫でる。

熱い。

昨夜よりずっと、熱い。


会わないうちに伸びた髪を掴み上げる。栗色の髪の毛。


その髪を一本一本見つめるようにして見ていれば、漸く紅奈は目を開いた。


ぼんやりした瞳は、何度も瞼を落とすが開いてベルを見る。


紅奈の唇が微かに動く。


そしてゆっくり紅奈がベルに手を伸ばした。


何か言っているが聞き取れない。

ベルは紅奈の伸びた手を握って唇に自分の耳を近付けた。


ギュ、と手は握り締められる。


─────…ザン…ザス


ほんのわずかな声で呟かれたのは、XANXUSの名前だった。


苦しそうに、もがくかのように紅奈はベルの手を握り締める。


…スク…ア…ロ……


次はスクアーロ。

呼んでる。


呟いているのではなく、呼んでいる。ベルはそう気付いた。


……ベル…

「…紅奈…」


自分の名前まで呼ばれて、ベルは驚く。


荒い吐息。紅奈はゆっくり目を閉じた。

爪が食い込むほど握られた手も力が緩む。


また眠ってしまったようだ。

夢でも見ていたのだろうか。


夢でも紅奈が自分達を呼んだのは事実。


「紅奈……わかった」


紅奈の右手を握り締めたまま、ベルはベッドに顔を埋めた。



オレは、止めるべきだったんだ。


かっ消されても、言うべきだった。


紅奈のためにも──────────。




紅奈の幸せに、オレ達もいるってことを。



ボスに伝えるべきだった。




紅奈の幸せのために動いたのに、紅奈の幸せを奪った。




「………紅奈…」


ベルは顔を上げる。


「オレは、ずっと紅奈と居るから…」


眠ったままの紅奈に言う。


オレの方が……弱い。弱いけど…─────────強くなるから


両手で紅奈の右手を握り、誓うように伝える。


キングのそばにいたいから…──────


あの日から、紅奈は特別。
あの日から、世界の中心は紅奈。
あの日から、紅奈がキング。


あの夏には戻れなくても、紅奈の幸せに自分達がいるのならばそばにいたい。

紅奈の幸せは、全て守りたい。


紅奈がキングだから。
紅奈に従う。
紅奈に尽くす。



ベルは、そう決意した。










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