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空色少女
124 指切り



「日曜日に野球をしよう。約束」

「……」


紅奈は小指を立てて出す。それを恭弥がきょとんとみる。


「指切り知らないの?」

「……ゆび、きるの?」

「………知らないのか?」


ふるふると恭弥が頭を横に振る。紅奈はまさかと驚愕しつつ呆れた。この家の人間はどんな教育をしているんだ。
不快だったのか顔をしかめる恭弥。


「こうやって小指を絡ませて…ゆびきりげんまんうそついたら針千本のーます、ゆびきった…ってやるんだ。これで約束したことになる」

「…うそついたら、はりせんぼん?」

「まぁ、実際針千本飲ませないだろうけど」

「?」


理解できないのか、恭弥が?を浮かべて首を傾げた。


「針千本は脅しかな。約束を破ったら針を飲めってね。実際に針を千本飲んだ人なんていないと思うけどね」

「やぶったら針をのまないと…そうゆう約束したなら」

「…うん………んー」


子供にこうゆうことを教える大人は頭を抱えてしまうよな。


「そんな物騒な脅しで約束するのはやめようか。じゃあね……新しい約束の仕方を考えよう」

「新しい?」


それは本当の大人に任せて、紅奈は新しい約束の仕方を考えようと提案する。

恭弥の手をとり、考えた。
考えるより先に、薬指を絡めて拳をこつりと合わせる。

おお、これでいいじゃん。


「こうしよう」

「…?」

「指切り。あたしと君だけの指切りバージョン」


にっ。と紅奈は笑みを向けた。


「これで交わした約束を破ったら、一つ相手の言うことを聞く。てのはどう?」

「……」


恭弥は薬指が絡む手を見る。
それからコクリと頷いた。


「決まりっ」


確かどこかの国がこんな指切りをした気がするが、まぁいいか。


「日曜日なら武君たちがいるからそこにツナ君と一緒にまざろう。日曜日ならツナも風邪治るだろうし」


知らない名前が出て、恭弥はきょとんとした。


「武は友達で、ツナはあたしの弟」

「弟?」

「そっ。双子の弟。あたしと顔はそっくりだけど、性格は違うんだ。今日会わせられたらよかったんだけど……生憎、風邪でね」


笑顔で話したが、風邪だと思い出して紅奈はしゅんと項垂れる。


「…あたしは身体弱いから…風邪引いた弟に近付いちゃだめなの。移ると寝込むからさ…」

「………カゼ……つらい…やだ」

「…うん、嫌だよね」


恭弥も寝込んだ経験があるらしい。紅奈は苦笑して頷く。
そしたら立ち上がった恭弥はパタパタと部屋を出ていってしまった。

ちょっとしてから戻ってきた恭弥の手には、皿に入れてあるサクランボ味の和菓子。
それを紅奈の前に置いて座った。

きょとんとしていれば、一粒口の中に突っ込まれる。
食べろとのことだ。

口の中に広がる、甘い味。
これが好きだって言ったこと、覚えていてくれたらしい。

笑みを漏らせば、恭弥も自分の口の中に一粒放り込む。


「そんなに…弱いの…?」

「風邪のウイルスに対抗する免疫力が弱くってね。高い熱出して四日間は寝込むくらい弱いんだ、残念ながら」


弱いと言われるとムカッとするが、こればかりは敵わないので白状する。果たして今の恭弥に理解できただろうか。
?は浮かべていないので、理解したようだ。


「ふーん…」

「うん。でも予防をしてれば風邪にはならないからね。風邪にならなければ健康そのもの、強いよ」

ニカッと笑う。
夕方まで他愛ない話を続けた。いつしか食べ続けた飴はなくなり、空っぽの皿に手を入れる紅奈。

残念がっていれば、最後の一粒を口にした恭弥が「んっ」と飴を歯で挟み差し出そうとした。

んっ、と言われても…。


「くれるの?」


コクリと頷く恭弥。
口に入れたものを今更くれると言われても、そこまでしてほしいわけではないし…。受け取らないとまた拗ねそうだから受けとるか。
手がベタベタになるのは嫌だが、仕方なく手で取ろうとした。

しかし恭弥がその手を叩き落とす。

そして顔を近づけて、紅奈の口にその加えた飴を入れた。
ぶちゅっといったが、列記とした口移しだ。


まさかそんなことをされるとは思っていなかった紅奈は呆然とする。

恭弥は変わらない表情で離れた。







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