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「悪い子。なに出てきてんだよ」


肩を掴まれたから震え上がったが、振り返ればベル。


「ベル…大丈夫っ?」

「なっさけねー顔して他人の心配かよ、変な奴」


ベルはあたしを笑った。

ベルは大丈夫みたいで、ちょっとだけホッとする。


「ティアナさんはっ?」

「くたばってんじゃん?」

「っ!」

「…冗談だっつーの、この銃声がティアナじゃね?」


あたしが涙目になるからベルは肩を竦めて教えてくれる。

どの銃声…!?


「自分だけ心配してろよ、早くキッチンに……あちゃあ」


ベルがあたしの腕を掴むと止まる。

ベルの顔が向いている方を見ようとしたら、引っ張られた。


その瞬間に轟く銃声。


ドタンッと床に押し倒された。


「いて。…オマエ邪魔」

「ご、ごめっ…!」


ベルの不機嫌な声。

多分銃弾から助けられたんだ。

邪魔にならないように離れようとしたら、また引っ張られる。

抱き締められて廊下を転がった。

銃声が追い掛けてくる。


「調子乗んな!」


廊下を曲がったところでベルはあたしを放して体勢を整えてナイフを構えた。

ザッと廊下を出てナイフを放つ。

悲鳴が聴こえる。

直ぐにベルは銃弾を避けるために持ってきた。


「まじめんどくせぇ」


左手首を庇うような仕草を見て、さっきので怪我したと気付く。


「ごめん、あたしのせいで」

「は?別にオマエのせいじゃ」


左手で髪を掻こうとしたが、痛みが走ったらしく手を震わせた。


そのベルの後ろに。


男が現れて、ベルに銃口を突き付けた。


バンッ!


立ち上がろうとしていたあたしは咄嗟に突っ込んで男を押し飛ばした。


「恵!」


考えもせずに突っ込んだから勢いあまって、さっきの廊下へと倒れる。


手には廊下のカーペットの湿った感触。


それを確認するより前にさっきの男があたしを見下ろして銃口を向けた。


ゾクリと冷たいものが身体を駆け巡る。


死ぬ。

そう思った。


ドガンッ!!


煩い爆音。頭上な熱いものが通った。


辺りは焦げた臭い。

血塗れだった廊下はカッ消されて黒焦げだ。


あたしは反対側に顔を向けた。


「やるじゃねーか」

「XANXUSさん…」


その先にいたのはXANXUSさん。

銃を持っているところを見ると、今のは彼が助けてくれたみたいだ。


起き上がって息をつく。


「あ、ありがとうございます。XANXUSさん」

「恵、大丈夫かよ」

「べ、ベルこそ大丈夫!?」

「お前が突っ込まなくてもオレ気付いてたし」

「左手!」


真後ろのベルを見上げて手を見せてもらおうとしたら、手がどうしようもなく震えてた。

右手が血に濡れてる。


「ハン!兎見てーに震えてんじゃねーよ、カス」


XANXUSさんに鼻で笑われた。

兎みたいに震えてるのか。あはは。

そこで静かになったことに気付く。


「あっ!ティアナさんは!?」

「あ?てめえが心配しなくても、アイツはくたばんねーよ」

「そ、そうですか…」


あたしは本当に無駄な心配をしてしまったようだ。


スリルを味わって、ベルに怪我させただけ。

どでかい緊張から解放されて力が抜ける。もう立てないかも。

すぐ横にXANXUSさんがしゃがんだ。


「てめえはあのカス鮫にはもったいねぇくらいいい女だな」


一瞬なにを言われているのかわからず、XANXUSさんをただただ見た。

あ、あたしか。あたしに言ってるんだ。


「あのカス鮫は捨てて、オレ様に乗り換えろ」


本日二度目の言葉に危うく放心しかけた。


「……カス鮫にしておきます」


まさかボスさんにそんなことを言われるなんて、夢にも思わなかった。断るのは躊躇してしまったが、とりあえず言っておく。

命を救われたのにカッ消される?






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