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「あ、ティアナさん。料理って出来る?」

「…それなりに」

「じゃあ今晩は一緒に作らない?」

「ししし、手料理?不味かったらボスにカッ消されるぜ?」

「あたしはティアナさんの助手に回ります。」


カッ消されるのはごめんだ。


パスタを食べたあと、食材の買い出しをしてヴァリアーの屋敷に戻った。

あたしの気を引くためかと思い込んでいたが、ベルはちゃんと重い荷物を持ってくれた。

おーいい男だわ。


スクアーロがいなきゃ惚れてたね、うん。


キッチンまで運んでくれた。



「まだ夕飯まで時間があるけれど…作っておく?」

「うん、そうしよ。あ、ありがとね。ベルくん」

「お礼はちゅーな」

「だめだってば…」


早速夕飯を作ることにすれば、ベル君がキッチンから出ようとしたから呼び止める。

悪戯に笑って言うから肩を竦めた。


そこにドンッと爆音が聴こえてきた。


途端にティアナさんとベル君は振り返り、ティアナさんは目を細める。

ただならぬ空気に変わった。


「他の幹部は?」

「多分まだ」

「なら隊員数人とわたしとあなたとXANXUSだけね」


ベルはナイフを取り出し、ティアナさんは銃を取り出す。


「こちらの情報が流されてるみたいね…」

「お前の失態かよ」

「…そうかもしれない。恵さん、ここにいて」

「ししし、ちょっと片付けてるからいい子にしてろよ」


あたしに説明もしないで二人はキッチンから出ていってしまった。

説明されなくてもなんとなく理解してる。


マフィアな緊急事態。

爆音やら銃声が聴こえてくる。

おお…怖い。怖いぜ。


キッチンに座り込んでいい子にしておく。


頭を抱えてじっとする。


大丈夫かな…ティアナさん。


ベルがいれば、大丈夫かな?


ボスさんは仕事ないとずっと寝てるらしいけど、流石に動くよね?


ほとんどの人がいないんだから動いてほしいな。


「…………」


銃声が止まない。


苦戦してるのかな。


ティアナさん大丈夫かな…。


じっとなんて出来なくてあたしは立ち上がる。


でもキッチンを出る勇気はなくて立ち尽くす。


不安で不安でしょうがない。


「スクアーロ…」


無意識に口から出たのは、スクアーロの名前だった。


余計に彼がそばにいないことが、怖くて怖くて…。


涙が滲み出た。


ガクガクと情けなく手が震える。


落ち着け。泣くな。

深呼吸する。

ヴァリアーだもん。ベルなら負けない。XANXUSだって、いるんだから。


スクアーロがいなくったって。


いなくったって……。


「っ!」


耐えられなくなってキッチンから飛び出す。


あたしはなにも出来ない非力だけど。


だけど。

じっとなんて、してられない。


騒音の方へと駆け出す。


だけど廊下を曲がったところで急ブレーキをした。


火薬の臭い。
気持ち悪くなって口を押さえる。

火薬の臭いに気持ち悪くなったんじゃなくて、目の前の光景のせいだ。

血の海と表現するべきだろうか。


返り血に染まる廊下に、死体が転がってる。


死体と言っていいのかどうかはわからないが生死を確認する余裕なんてあたしにはない。



キッチンに出るべきじゃなかった。





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