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「え?」

「鮫なんかやめて、王子にしとけよ」


後退りするとまた近付いてくる。


漸くあたしは気付く。


この子、スクアーロからあたしを奪おうとしてる…みたい、だ。


多分ベル君の暇潰しであるちょっかいと言うか質の悪い悪戯。

やれやれ…この子は。


「ごめんね、あたしはスクアーロの運命の人だから。それはできないよ」

「運命のヒトってエライわけ?」

「エライとかじゃなくて…絶対的に惹かれる相手だから、それ以上の人はいないわ」

「…オレには惹かれないってこと?」

「そーゆーこと。残念でした、スクアーロからあたしは奪えないわ」


つんっ、とベル君の鼻を人差し指でつつけば仰け反った。


するとベル君はあたしの右手を掴んで握り締める。

いたたた…。


「その気になれば奪えるし」


スクアーロは不在が多いから、強引に奪える。

ちょっと怒らせたみたいだ。


ベルは顔が見えないから感情を読み取れないから危なっかしい。


「それはやめた方がいいよ?あたし浮気したら死ぬらしいから」

「は?」

「あたしを無理矢理奪えばもれなくあたしの命も奪うってこと」


笑って言えば、色白の手が伸びてベルの手を放させた。


「ユニの予知よ。スクアーロに呼ばれてこの世界にいる以上、スクアーロ以外の相手に恋をするのは命の危険があるの」


ティアナさんだ。
簡潔に教える。


「は?なにそれ、アホじゃん。バッカじゃねーの?んなの、ありかよ」

「ふっ…もう異世界飛んだ時点でなんでもこいさ!」

「自棄かよ。」


しょうがないじゃないか。

運命の赤い糸で結ばれてる故に世界を飛び越えてしまった時点で、それは揺るぎない事実なのだから。

信じられないと困惑するより、理解して納得しないといけない。


「たった一人に縛られるなんて、バカらしい」

「そうかな?たった一人で十分だと思うけど」

「どうせ飽きるじゃん」

「まぁ、そうね」


吐き捨てるベルにあたしが頷けば、二人がバッと振り向いてきた。


「…否定しないのかよ、夢見る乙女」

「否定しないよ?」


二人の間を歩いて答えておく。

驚かれちゃった。


「心変わりくらいありえるよ」

「…今さっきスクアーロ以外に惹かれる相手はいないって言ったじゃん」

「ああ、そうじゃなくて……あたしの気持ちがずっとスクアーロに向けられるかどうかは…」


言葉を止めて振り返れば、ティアナさんもベルも足を止めて沈黙をしている。

まずいことをいってしまった、みたいだ。


「お前、意味わかんねー。どっちだよ?」

「気にしないで。ほらいこいこ」

「夢見る乙女じゃねーのかよ」

「きゃー!乙女の髪を掴むんじゃない!」


無理矢理話を終わらせようとしたけど納得いかないベル君があたしの髪を掴んで止めた。

女の髪掴むとかだめだからね!


「…自信がないの?スクアーロを愛し続ける自信」


ティアナさんが静かに訊いた。


愛し続ける自信。

少し恥ずかしく思える反面、苦しくて俯いた。


「……あたしは希薄姫だから」


薄く笑って言う。


何かに蝕まれるその前に気持ちを切り替えて顔を上げる。

今度は明るく笑ってみせた。


「美味しいものが食べたいな!」


ベルが何かを言いかける前に察してくれたのかティアナさんがなにがいいかを訊いてくれる。

食欲なんてなかったけど、パスタと答えておいた。









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