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080

あなたはまた、あたしを置き去りにする。






一人ぼっちの部屋。

覚醒してもずっとあたしはベッドの上に座ったままでいた。


どれくらいの時間が経ったのか、ノックの音に顔を上げる。


扉を開けば、珍しく乱れたスーツに髪のティアナさん。


「おはよう……シャワーと服を借りてもいいかしら?」

「おはよう…いいよ」


余裕のないげんなりした表情のティアナさんに戸惑いつつ、部屋に入れる。

あれ、昨日と同じスーツだ。


「あれ!?もしかしてティアナさん…本当に談話室に放置されたの!?」

「……」


上着を脱いだティアナさんは沈黙を返す。


酔った女の人を無法地帯な談話室に放置したのか奴ら!!と怒りに燃えたが違った。


「……起きたら…」

「起きたら?」

…XANXUSの部屋に……


背中を向けられていたから、ティアナさんの表情はわからなかったが落ち込んでいるように感じられた。


そして呟かれる爆弾発言。


お酒に酔って起きたらボスさんの部屋って…デンジャラスなサプライズっ!!


「わたし…全然…昨日のことを…覚えていないの…。わたし、なにしたのかしら…」


ヨロッとしたがタンスに手をついてなんとか持ちこたえるティアナさんに心は罪悪感に蝕まれる。


あたしが酔わせたせいだ…!!


昨夜あなたはXANXUSさんのことをお兄ちゃんと呼んでいました。

なんて言ったら失神しそうだから言えない…言えないよ!


「ざ、XANXUSさんは……?」

「…椅子に座って新聞を見ながら、"起きたなら帰れ"と一言……」


ついにティアナさんはその場にしゃがみこんだ。


ぐらぁん、とティアナさんの頭上が暗く見える。

何があったことすら訊けずに真っ直ぐこの部屋にきたわけか。


「起きたら……ベッドにいたのかな?」

「……はい」

「…………ちなみにボスさんとはそうゆう関係じゃあ」

「ないです。」

「ですよね…。……じゃあ、昔はお兄ちゃんって呼んで、たりしてたのかな?」


タンスに額をくっつけていたティアナさんは、くるっとあたしを振り返り目を見開いた。


「……何故それを…」


あ、ビンゴだったんだ。


昨夜そう呼んでたよ、と言ったら追い討ちになりかねないが。

ベルとかに言われるよりはあたしに言われた方がましだと自己判断した。


「XANXUSさんが来て、ティアナさんを彼が起こしたら…そう呼んでたよ?二回くらい」

「……………」


ガンッ!とティアナさんはタンスに額をぶつける。


やっぱり追い討ちだった!!


「ティアナさんっ…!」

「……昔はそう呼んでたの…。彼にとってわたしは妹のような存在だから…」

「妹…」

「でも自分がボンゴレ9代目の実子じゃないと知ってから…そう呼ぶことを禁じられた…」

「!」


そうか。


ティアナさんは昔から、幼いときからXANXUSといたんだ。

振り回されたと言っていたから、それなりの時間を過ごしていたに違いない。

お兄ちゃん。そう親しく呼ぶことを禁じられた。


だが昨夜、酔っていてそう呼んでしまった。だからXANXUSさんはあんな重い空気を醸し出していたのか。

幼なじみ、なんて一言で言い表せない複雑でもっと深い関係みたいだ。


「…でも、怒られなかったんだよね?」

「……目を、合わせてもらえなかった…」


XANXUSさんは怒りをストレートにぶつけるタイプだったよね…?

怒鳴るなり物を投げるなり。

でもティアナさんには物を投げないんだよね。

お兄ちゃんと呼ぶことを禁じても妹のように、大事なんだと思う。


「…起きたら、スーツ脱がされてた?」

「……いえ、このまま…」

「なら過ちは犯しちゃいないさ!酔ってたんだし、許してくれるよ!」


元気付けようとポンポン、と肩を叩く。

そうすればティアナさんは一度俯いてからまた顔を上げた。




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