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079




腕の中でも恵は泣いていたが、部屋についた頃にはもう眠ってしまった。


なんで泣いたんだ…?

タイミングが悪かったからか?

それともあの言葉自体がまずかったのか?


ベッドに恵を下ろして顔にかかる髪を退かす。


「これのせいで…」


胸ポケットにしまった指輪を取り出した。

シルバーの輪に緑色の宝石。
ペリードット。

恵はいつもペリードットの指輪をつけている。今も左手の中指につけていた。

その指輪はなんだと訊いたら、ポジティブになれるだとか社交的になれるとか言っていた。パワーストーン効果らしい。


遅くなったからきっと恵が怒っていると思って指輪を買って帰ろうとした。

この指輪を買うために宝石商を叩き起こしてたら更に時間がかかって、余計恵を起こらせてしまったがな…。


「上手く行かねぇもんだなぁ…」


愛してる。


そう伝えて指輪を渡そうと思っていたが、まさか他のやつらと飲んでいるとはな…。

ロマンチックに演出しようとしたのに、ぶっ壊された。

…まぁオレの詰めが甘かったせいだがな。


「…んぅ…」


ぬくっと恵が起き上がって、直ぐ様オレは指輪を背中に隠した。


「…恵」

「……うぅっ」


また涙目になる恵。


「おいっ、泣くな……!」


グスン、と恵は鼻を啜りオレにすがり付いてきた。涙ながらに背中に腕を回して締め付ける。


「まもれない、やくそく、しないで…」

「……悪かった…」

「期待なんて、させないで…」

「…悪かったって…」


頭を撫でて泣き止ませようとした。

だが、恵は啜り泣く。


「……あたし…たえられないよ…」


頭を撫でる手を止める。


「あなたが…いない時間が、多すぎて……つらいよ…」

「……恵…」


オレにすがり付く恵が。


「あなたの居場所なのに、あなただけがいなくて……」


あまりにも儚すぎて。


「…意味ないよ…」


今にも消えてしまいそうで。

オレは抱き締めた。

消えていかないように、強く抱き締める。


「もう少しだけだ、恵」


帰るな。帰るな。


「堪えてくれ」






オレのそばにいてくれ。
希薄姫。










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