003
「人の名前が知りたいときは先ず自分から名乗らないと」
「もう知ってんだろーが…。スペルビ・スクアーロだぁ」
「菊姫恵。恵でいいよ」
お互い名前を名乗ってから一口エスプレッソを飲んだ。
「う゛お゛ぉいっ、薄いぞぉ」
「あ、ごめん」
ダメ出しされた。しょうがない。本場とは違うんだからさ。
「あたしは昨日……お酒飲んで、そのまま寝ちゃった」
テーブルの上には昨夜飲んだ缶が置いてある。
週に一度飲んでるんだけど、昨日はやけに荒れていた。
不意に感傷的なって一人寂しく飲んでいたが、それを今会ったばかりの男にいうことじゃないだろう。
あ、でも。
スクアーロがいてくれたらいいのにって……思ってたな。
「う゛お゛ぉいっ!」
ボケッとしてたからいきなりの大声にびっくりした。
「オレも仕事終わりに飲んでからそのまんまベッドに入って…起きたらここにいたんだ!」
「共通は………酒飲んでベッド?」
バンッとあたしのベッドを叩くスクアーロ。
あたしを哀れに思って神様がスクアーロを連れてきた、わけじゃないよね…。まさかね。
とか思っていたらずいっとスクアーロが睨み付けながら顔を近付けてきた。
「そんな共通でオレはここにきちまったのかぁ!?」
「近付いて怒鳴るのはやめてくれないかな…。あたしのベッドはみての通りただの安いベッドだから、行動やなにかが原因でこうなったとか…憶測を立てて帰る方法を考えなきゃ。帰りたいでしょ?」
「当たり前だぁ!」
だから煩いって。
当然知らない世界より、自分が生まれた世界に居たいだろう。
あたしはまだ間近にあるスクアーロの顔を見つめた。
それに気付いて眉毛がつり上がる。しかめた顔になった。
「なんだよ?」
「…あたしは会えて嬉しいなぁと思って」
「は?」
「ね、スクアーロ。帰るまで行き場ないならここにいていいよ」
あたしは笑って言う。
「とりあえず今夜は一緒にお酒でも飲んで、ベッドに入ってみよう。帰れるかも」
「………いいのかぁ?男を泊めても。日本の女はお堅いと聞いてるが?」
「あら、勘違いしないで。お酒飲んで同じベッドで添い寝するだけよ、昨日と同じことをしなきゃ帰れないかもよ?」
あたしは釘をさしておく。
「大人の男なら、わきまえるわよね?」
わきまえないとかほざいたら即刻追い出す。
彼は今武器をもっていないから蹴り出せるだろう。
あたしの元に現れたのはなにか意味があるんだろうし、必ず帰れるとは思わないが確率は高いだろう。
「………わかった。帰るためだぁ」
スクアーロはベッドに腰をかけ直した。
「決まり。じゃあちょっと出掛けてくるね、お酒も買ってくる。なに飲む?って昨日飲んだものじゃないとだめかな」
「どこ行くんだ?」
「仕事」
「仕事って?」
「秘密。」
「う゛お゛ぉいっ!お前はオレの仕事知ってんのに秘密にすんのかぁ!」
「え?君の仕事なんて知らないよ?」
「う゛お゛ぉいっ!とぼけんな!」
「行ってきます」
あたしはさらりとかわして仕事に向かった。
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