065 「……てめえがそんな風に笑うのは…久しぶりに見た…」
「……喧嘩、ですか?」
「いえ別に。…スクアーロが昨日早く帰るから起きてろって言ったのに、日付が変わったあとらへんに帰ってきたんです」
「ハン、一回すっぽかしたくらいで無視とは幼稚な女だな」
「…大事な話をするつもりだったんですぅ。しかも謝りもしない!」
ティアナに問われて恵が答えれば、XANXUSが鼻で笑い退ける。恵は膨れっ面をした。
「……やっぱり、仕事しようかな…」
「てめえが暗殺者になんのか?」
「いや、暗殺者は無理です。」
溜め息をついて俯いて呟く。
暗殺者は無理です。
「怒ってるわりには楽しそうにコントしてたじゃねーか」
「ああ、怒りを込めて頭を叩きましたよ?でもティアナさんが笑うからつい嬉しくなって」
今日はXANXUSも口を聞いてくれて恵はティアナに目を向けた。
ティアナはきょとんとする。
XANXUSも目を向けた。
「わたし…ですか?」
「笑うって大切ですよ?無表情のままだと寿命減るらしいですから」
「……」
ニコニコしながら恵は二人に言う。
「……わたしは長生きしたいわけではないですけど」
そう呟きつつ自分の頬をマッサージするようにこねるティアナが可愛らしく見えて恵は笑みを溢す。
ティアナは同じく表情を変えないXANXUSに顔を向けた。
手を伸ばしてXANXUSの頬に触れたかと思えば、クイッと引っ張る。
へにゃ、と頬を引っ張られて口元がつり上がった。
自分でやっておいてティアナは吹き出す。
「………………」
よほどツボったのか腹を押さえて踞っている。
勝手に顔をいじられた上に、笑われているXANXUSの顔が怒りに染まった。
笑ってはいけない。
笑ってはいけない。
そう思うも堪えきれず、恵は必死に笑い声が漏れないように押さえて背を向けた。
「笑ってんじゃねぇカス!!」
「いたぁ!?」
カコーンとスプーンが後頭部に直撃。
何故だ。
何故やらかしたティアナではなく、被害者な恵だけがスプーンを投げ付けられたんだ。
頭を押さえつつ振り返る。
「てめえもだ」
「でも…」
ティアナは未だに腹を抱えていた。
「……てめえがそんな風に笑うのは…久しぶりに見た…」
「……そうね。久しぶりに笑ったかも」
XANXUSに言われてティアナは少し考えてから、口元を弛めて言う。
穏やかな眼差しでXANXUSを見つめている。
いきなり二人がいい雰囲気になって、恵はなるべく自分の気配を消そうとした。
この雰囲気。
親しさが滲み出ている。
「……」
ティアナはぎこちなく目を伏せた。
(ああ!まだ見つめあってていいのに!!)
ときめきで一杯な恵。
ティアナが逸らすとXANXUSも顔を逸らした。
「笑ってんじゃねぇ!」
「みゃあ!!」
恵のにやけ面に気付いてXANXUSは今度はナイフを放つ。
間一髪恵は避けた。
とてもとてもとても、訊きたかったが訊いたらもれなく怪我するか死ぬかだ。
ときめきでお腹が満たされた恵だった。
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