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063 「……好きな人に近付くため」




コンコン。


しゃがみ込んでいればノック音。

自分の部屋ではないのに、出てもいいのだろうか。なんて今更のことを考えつつも扉を開く。


「お暇ですか?よろしければ街のパン屋に行きませんか?」


当然、暇。


ティアナの気遣いに恵は笑みを溢す。


喜んで一緒にいけば街一番のお洒落で美味しいパン屋に連れていかれた。

美味しい香りに満ちている。


「んー、美味しそう。フラン君の分もいいですか?」

「ええ、構いません。明日の朝食の分もどうぞ」

「ありがとうございます!」


一文無しだからティアナの奢り。


「…なんだか本当に悪いですね。ここで仕事でも探そうかな」

「仕事ですか…」

「はい、暫く滞在することになるし…暇ですから」

「……」


パンを選びながら相談してみた。

見た目も上品なパンを眺める。イタリア語の値札をティアナが親切に教えてくれた。


「…マフィアの仕事ならすぐにでも紹介できますよ」

「え、あたしにできますか?」

「書類業務なら、ヴァリアーも本部もあります。かたぎの仕事なら接客業とか」

「おお…ティアナさん、すごいですね」


物凄く心強い。

マフィアの仕組みはあまり理解していないが、かなりエライ立場だということはわかってきた。


「ティアナさんがサポートしてくれるなら、綱吉君も助かってるでしょう」

「…そうでもないみたいです。わたくしがいると緊張してしまうみたいで、リボーンが見てる方が捗るようです」


少しだけティアナは俯く。

どうやら変なことを言ってしまったようだ。

ティアナからしたらあまり役に立てていないと思っているのか。


「どうして…ボンゴレのサポートを?」

「……好きな人に近付くため」

「え?」

「─────なんて、冗談です」


スッとパンを乗せたトレイをとり、モデルようにレジに歩いていった。


好きな人に近付くため?

まさか。

噂は事実!?


恵は困惑したが訊けるわけがなかった。








自室に戻ればスクアーロが戻っていた。


「どこいってた?」

「…ティアナさんとパン屋」

「ほーう」

「…ダイニングで夕飯?」

「ああ、そうだなぁ」


パンをテーブルに置いて二人で立ち尽くす。

スクアーロはヴァリアーの隊服のまま恵の手を引いてダイニングに行く。


「あ、バカップルじゃん」

う゛お゛ぉいっ!誰がバカップルだと!?

「あ、フラン君。パンどうぞー、今日遊んでくれたお礼」

「おーいただきますー」


またフランが椅子を引いてくれた。座る前に渡す。

ティアナの奢りだが、と付け加える。






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