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062 「ツチノコ探し」




部屋に置かれた食事を腹に入れてからシャワーを浴びて、着替える。


それから少し迷ったが、散歩しに出掛けることにした。

ヴァリアーの屋敷を歩いて出口に出る。


(イタリアに来たんだから観光もしたいわ)


空を眺めながら歩いていく。

昨日の雨跡。湿った煉瓦の道を歩む。


動くな。

「!」


背後から聞こえた低い声と同時に背中になにかを突き付けられた。


「貴様、ヴァリアーの女だな?」

「え?」


顔だけ振り返るとフードを深く被った男。


仇だ……死ね!

「っ!!」


身を強張らせた。

しかしいつまで経っても衝撃はこない。

恐る恐る振り返れば、ピチャッと顔に水がかかった。


「なーんちゃって」


そこにいたのは水鉄砲を持ったフラン。

恵が見た男は見当たらない。


「………幻覚?」

「幻覚ですー」

「驚かさないでよー」


ガクリと恵は肩を竦めた。

フランの悪戯に引っ掛かったようだ。


「朝から暇そうな恵さんを見付けたんで、悪戯してみました。てへ」

「無表情のままてへと言われたら反応に困る…」


被っているカエルが印象的すぎて気に留まらなかったが、フランも真顔が通常フェイス。


「ヴァリアーの人達は大抵夜に任務なんで、朝は寝てる場合が多いんですよー。だからミーや紅さんみたいな正常な生活してると遊ぶ相手がいないんですー」

「つまりは遊ぼうってことだね」

「話が早くて助かりますー」

「あたしも暇潰す相手探してたんだ。何して遊ぶ?」

「ツチノコ探し」


……………ツチノコ?
ぷくーとした蛇かな?


「れっつごー」

「んん!!?」


理解する前にフランは恵の手を掴んで森の中へと足を踏み入れる。


「先週ミーが見かけたんですが、取り逃がしたんですー。それをつかまえましょー!」

え!?いたの!?ツチノコが!?よっしゃ見付けようぜ!

「俄然やる気出したー…」


朝から森の中を探検捜索を開始した。


野生の動物如く身軽なフランに振り回される形で五時間。


「ツチノコ探しで…森の中駆け回って、そんなに汚れたの?」

「はい……ははは」


屋敷の玄関でルッスーリアに見付かってしまった。

雨が降り注いだ翌日の森で駆け回ったため、恵とフランは泥だらけ。


「ツチノコなんて、いたの?」

「冗談だったんですけど、恵さんがどこまでついてきたので」

「なに!?冗談であんなに振り回したの!?」

「てへっ」

「だから真顔でてへをされても!」

「もう!二人ともシャワー浴びてきなさい!」


はーい、と返事をして自室に向かう。


勿論紅はスクアーロの自室。

浴室に入り、泥を洗い流す。


冗談で振り回されたが楽しかったと恵は口元を緩める。

大蛇を見付けたり木に上って梟を見付けたり、森で遊んでリフレッシュできた。

浴室から出て髪を拭いて時計を確認したら二時を差している。


「…帰りたいな」


ポツリと呟く。


仕事がしたい。

旅行しにきたと思えばなんとかなると思ったが、元々恵は習慣通りに過ごさないと気が済まないタイプ。


なに不自由ない習慣が崩れて、特になにもすることがないというのは…。






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