060 「連れ帰ることができて満足?」
「生活用品を購入したのですか?他に要りようなものがあるなら、わたくしが揃えます」
「いえいえ!もう大丈夫ですよ」
ティアナが気を使って言ってくれたが、恵は慌てて首を振る。
なんだかんだスクアーロは服も買ってくれた。
寝巻きはYシャツ一枚だと譲らなかったため、寝巻きはいないが頼むほどではない。
「スクアーロは恐らく任務に出掛けるでしょうから、夕食ご一緒にどうですか?」
「ああ、らしいですね。ぜひ」
確かにスクアーロも任務だと言っていた。ティアナのお誘いに恵紅は笑みを溢す。
「隊長が仕事しなきゃ恵さんがボスにカッ消されちゃいますもんね」
「カッ消されたら見物だな」
笑うベルに恵は乾いた笑いを溢す。
「大丈夫です、わたしが言っておきますから」
「ティアナさんが言えば彼、大人しく聞くんですか?」
「…長い付き合いなので」
バッとキラキラした目を向ける恵に少々戸惑うティアナは頷く。
「あのあのティアナ、さん」
「なんでしょう?」
「いい加減にしろぉ!」
「みゃっ!」
ティアナに詰め寄っていたら、いつの間にか戻ってきたスクアーロに引っ張られてその場から引きずり出された。
「首突っ込むんじゃねーぞ!オレの留守中に逆鱗に触れるな!死にたくねーだろ!」
「…はいはい、大人しくしますわ」
買い物袋を片手にスクアーロと自室に戻る。
「夕食、ティアナさんと摂ることにしたから」
「……」
「余計なとこには首を突っ込みません」
ジロリと睨まれたから恵はベッドに飛び乗り、ヒールを脱ぐ。
「なるべく早く帰る。クローゼットに服詰めていいぞ」
「スクアーロ、あたしも帰って仕事したいな」
「帰さねぇ」
「誘拐だぁ」
あたし誘拐されました。と恵は呟いてベッドに身体を沈めた。
自分が消えた世界を想像する。
やけに静かだと、顔を上げてスクアーロを探してみればすぐそばでスクアーロはにやにやとこちらを見ていた。
「…なににやついてるの?」
「いや……恵がオレの部屋にいることが……な」
腕を組んで眺めるように見るスクアーロ。
「あたしも違和感だらけよ、異世界にいるなんて」
「違和感じゃねぇ」
歩み寄ってきたスクアーロはベッドを軋ませて乗った。恵の上を股がり、顔を近づける。
スクアーロの視線が恵の唇に向けられた。
「連れ帰ることができて満足?」
避けるように恵はまたベッドに横たわる。
その恵の横にスクアーロの肘が置かれた。
ただ黙ってスクアーロは見つめる。
恵も見つめ返す。
そのままスクアーロは恵の隣に横たわった。
恵は向き合うように身体を向けてスクアーロを見上げる。
「…何時帰ってくる?」
「……なるべく早く帰るようにするから起きてろ」
「十時に寝る」
「はえぇぞ」
「仕事に行かなくても習慣は崩せないわ」
「十二時まで起きてろ」
「やだ、十時」
「…十一時」
「十時」
「じゃあ十時半!」
クスクスと恵は笑う。
恵の笑みにつられてスクアーロも笑みを洩らす。
そのままキスをしようとしたが掌で恵は阻止。
「う゛お゛ぉいっ?」
「お酒飲みながら話そ。早く帰ってね」
「……おう」
唇にキスは諦めてスクアーロは恵の額にキスを落とす。
それから部屋を出ていった。
残された部屋のベッドに寝転がる。
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