054 「嫌いになったりしませんよ」
「彼女が帰る方法はないの?」
ティアナがユニに訊いた。
「願えば帰れると思いますよ」
「ほんと!?」
「スクアーロさんと恵さんがそう願えば、きっと」
「………きっと願ってくれない…」
放さねぇと宣言したスクアーロが帰してくれないとわかりきっている恵は落ち込む。
「あ……そうなると、喧嘩して…帰っちまえ!って思えばフッと消えちゃうのかな」
「それはわかりません……ですが二人が願ったのなら、多分」
「留まり続けることは出来るのかな?」
「はい、スクアーロさんが居てほしいと思っているので」
「じゃあスクアーロがあたしを嫌いになったら、あたしは戻されるかな?」
思い付いて恵はユニに問い詰める。
きょとんとするユニ。
「嫌いになったりしませんよ」
優しい笑みを浮かべてユニは答えた。
「他に好きな人が出来るかも」
「それもないでしょう。あなたがスクアーロさんのたった一人の運命の相手ですから」
純真なユニがそう言ってくれるが恵は笑みを歪ませる。
「心変わりは有り得るでしょう?元々あたしはこの世界の人間じゃないのだから…いつかは帰らなくちゃいけなくなるでしょ?」
「………」
困ったようにユニは視線を落とす。
「……恵さんが思うほど、彼の気持ちは希薄にはなりません」
やがて顔を上げて、優しい微笑みで静かに言った。
「………あたしが希薄なんだ」
それでも恵は悲しげに薄い笑みを浮かべる。
そこに。
「時間だぞ、ツナ」
「ふげっ!」
綱吉の頭を踏みつけてスーツの赤ん坊が登場した。
降ってきたように見えた恵は真上を見上げる。
「踏みつけるなよ!リボーン!」
「さっさと仕事にかかれ。溜まってるぞ。…おめーが恵か、で?どうなったんだ?ヴァリアーで保護するのか?」
「え?」
テーブルの上に立つのはリボーンだ。
問われた質問に恵は首を傾げる。
「ヴァリアーよ。スクアーロが放さないと言ってるから、ここで保護すると言っても聞かないと思うわ」
「だがティアナ、アイツも任務が溜まってるんだろ?面倒見る本人が留守だと恵は危険だろ」
ティアナとリボーンが話しているのを聞いてから恵は綱吉に顔を向けた。
「言い出したお前がちゃんと説明しなくてどうする」
「いてててっ!」
リボーンにつねられて漸く綱吉が説明する。
「ヴァリアーじゃあ色々不安だろうと思って……ここの方が安全だからここの部屋を使ってって言おうとしたんだけど……」
言葉を濁らせる綱吉。
スクアーロが運命の相手の話になってしまい、言い出せなくなったのだろう。
「運命の相手といてーのはわかるが、こっちの方が安全だぞ」
「聞いてたんだね……。んー、とりあえずあっちの世界でスクアーロの世話をしたからその恩返しをしてもらってから……考え直してもいいかな?ヴァリアーじゃあとても暮らせなかったら」
「あ、うん!いつでも大歓迎だから!」
「ありがとう。ごめんね、仕事溜まってるのに」
「全然!息抜きできてよかったよ!」
「早く行け」
「わかってるよ!じゃあまたね!いつでも遊びにきて!」
最後まで笑いかけてくれた綱吉はリボーンに追い出されるようにこの場を去った。
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