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127「愛してる」



スクアーロの部屋に向かって歩いていれば、ぐいっと引き寄せられてまた恵は抱えられた。
そのままスクアーロの部屋に連れて行き、一緒にベッドにダイブする。
そして恵をギュッと抱き締めた。


「お前がいない日々は辛かったぜぇ…」

「…あたしが置き去りにされた気分がわかったか」

「ああ、充分わかったぁ。だからもう離れるな」

「約束は出来ない」

「なんだと?」

「ほら、希薄姫だよ、あたし。逃げちゃう」

「何度でも捕まえてやる」


ギュッと抱き締めながら、恵の髪を撫でる。


「…悪かった…。何度もすっぽかして、お前の作ってくれた料理も…悪かった。悪かった、恵」

「…許してやる」

「……せっかく暇ができたのに無駄な時間になっちまったぞぉ」

「あたしは綱吉と有意義な時間を過ごせたぜ」

「寂しかっただろぉが」

「え? 全然、忘れてたもん」

お”ぉいっ! 嘘つくんじゃねぇ!」

「うわっ、久々で声…うるさっ」


抱き締められているこの距離でのスクアーロの怒鳴り声は慣れていたはずだが、久しぶりで耳が痛い。その上に頬をつねられた。
それでも恵は押し退けたり離れようとしない。


「…今日、かっこいいね」

「あ? …お前こそ、すげぇきれいだ」


ずっと見つめていたが、恵は視線を落とす。スクアーロのスーツ。襟を直していく。

スクアーロは恵の頬を撫でてから、恵のドレスを見る。


「天使かと思ったぞ」

「天使になりかけたけどね」

「お前死のうとしたのか?」

「まぁそうだね、自棄。もう一度会ってあなたの声を、顔を、髪を、匂いを、温もりを…やっと薄れたのに、また記憶に刻み込むと…」


天使という表現に恵は笑い、自殺を認めた。
スクアーロの襟元を見ている。


「…余計つらいから」


大袈裟といわれるかもしれない。
それでもそのつらさや痛みを味わうくらいなら、死んで逃げ出したかった。
死ぬなんて本当は思っていなかったが、結果的にそうなってしまっただけ。


「……それくらいあなたが好きで…それくらいあなたがあたしにとって大きな存在で…」


離れても、会わなくても。
片時も忘れることが出来なかった。

他人との関係が希薄に感じていたはずの恵が、忘れることが出来なかった。

運命の強い繋がりで出逢った存在。

好きだ。大好きだ。そして。


「…言え」


スクアーロは恵の顔を、上げさせた。
真っ直ぐに見つめて、その言葉を求める。


「言ってくれ……聴きてぇ」


その声で、その想いを云ってほしい。
恵は頬を赤く染めて口を紡ぐ。


「…言えよ」

「……言ったこと、ないんだからね…誰にも…」


恥ずかしさで涙を浮かべる恵は、逃げるかのように目を泳がす。

誰にも言ったことがない。
誰にも云ったことがない。
家族にも友達にも恋人にも。


「さっき言ったじゃねぇか」

「…言ってないもん…」

「もう一度言え」

「…言ってないもん」

「……言ってくれ…頼む」


否定をする恵に、スクアーロはまた求めた。


「…あの言葉を最後に、お前が死ぬと思ったんだぞ……」


その言葉を最後に、恵は消えてしまうかと思った。
あの言葉を云ってくれたのに、逝ってしまう。
もう一度、云ってほしい。


「なんでお前が泣いたかわかった……こんなにも嬉しいんだな…。これを渡して云えばよかった」

「…指輪?」


少し笑ってからスクアーロは指輪を取り出して、恵の右手の薬指にはめた。
ペリードットの指輪。


「これでお前の気が少しでも楽になればと思ってな…」

「……ダイアモンドにすればいいのに」


ペリードットのパワーストーン効果。前向きになれるように、なると恵が既に持っているペリードットの指輪を買った。

どうせなら永遠の愛の意味を持つダイアモンドにすればいいのに、と恵は笑い出す。

恵の笑みにスクアーロも笑みを浮かべた。


「これからは一緒の時間の方が多い。お前を孤独で苦しめたりしねぇ…そばにいる。だから…」


恵は、スクアーロの頬を右手の親指で撫でる。


「泣いてたもんね、スク」

「…お前こそ泣いてたじゃねぇかぁ、希薄姫」

「情けない顔だったよ、カス鮫」


恵はクスクスと笑った。


「愛してる」


微笑んで告げる。


「愛してるぜ」


スクアーロも伝えて、唇を重ねた。







銀色の光で眠りから覚めて、恵は目を開いた。
スクアーロも目を覚まして、瞼を上げる。
手を握り締めたまま、目の前に運命の相手がいた。

甘い香りが安堵を与える。

運命に結ばれたその相手がそこにいたことに安らぎを感じて、二人は笑みを溢した。



end

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