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112 死ぬな。生きろ。愛してる。愛してる。




恵!!


恵の身体が床に叩き付けられる前に、スクアーロが駆けて受け止めた。


恵は自分の首を押さえている。


まるで見えないなにかに首を締め付けられているようだった。


息ができないのか。

小刻みに息を吸い込むが取り込めていないようだった。


「…ぁ、す…く…っは」

恵!!…ってめえなにした!!

「オレはなにもっ…!」


苦しむ恵になにも出来ないスクアーロは、ベルに怒鳴り付ける。

ベル自身、動揺していた。

なにもしていない。

恵とキスをした。
ただそれだけだ。


触れた途端、恵は倒れた。


「恵!しっかりしろ!っ恵!!」


呼び掛けるが息が出来ない恵は返事すら出来ない。

やっと触れた恵の身体をこの腕で抱き留めているのに、スクアーロにはなすすべない。
求めていた香りを嗅いでも、安らぎを感じる暇などなかった。
真っ直ぐに見た恵の瞳に涙が浮かぶ。


恵っ!


恵が死ぬ。
その恐怖にかられたスクアーロは、抱き締めた。


だめっ!死ぬな!おいっ!恵!


恵の呼吸が弱くなる。

やめろ。
恵を殺すな。


スクアーロは念じた。


恵を留めているのがこの想いなら、通じると願いたかったがそんな魔法はない。


やめろ。やめろ。
恵を奪うな。


恵の頬に涙が伝う。


「恵っ、そばにいろっ」


力が抜けていくのを感じた。


そばにいてくれっ!恵!


死ぬな!死ぬな!


強く強く念じても、恵の呼吸が正常に戻ることはない。

ずっとスクアーロの目を見ていた恵は、苦しいくせに笑みを作った。


……ぁ…ぃ…


してる。


絞り出して言おうとしたが、声はでなかった。

だがその口の動きでスクアーロに伝わる。


愛してる。


ポタ。

恵の頬に、スクアーロの涙が落ちた。


愛してる?


死にかけているくせに、その言葉を言うなど、反則だ。

浮気は死に値する言っていたくせに、他の男にキスをして死にかけているのに。


(オレを愛してるだと?)


オレを愛してるなら。

オレを愛してるなら、そばにいてくれ。

そばにいてくれっ、恵。



スクアーロは恵の唇に口付けをした。


死ぬな。生きろ。愛してる。愛してる。


恵を精一杯抱き締めて、祈るようにキスをした。








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