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109 「まだ居たんだ、恵」




恵を気に入っていることは確かだが、XANXUSが恵に恋愛感情を抱いているかどうかは定かではない。


だがベルフェゴールは、確かに恵に恋愛感情を抱いていた。


最初は興味なんてなかった。

暇潰しにちょっかいを出す相手程度の存在。


それがいつの間にか、手に入れたい女になっていた。


ベルにとって、恵を求めるこの感情が恋愛感情なのかどうかなんてどうでもいい話だ。


ただ、手に入れたい。


それだけ。


だからパーティー会場につくなり、スクアーロよりも先に見付けるべく離れて探した。


(いねーじゃん。)


しかし恵の姿は見当たらなかった。

諦めてベルはシャンパンを片手にバルコニーに出る。

恵に会えないなら来た意味がない。


つまんねーの。


バルコニーから飛び降りてそこら辺の殺し屋を見付けて憂さ晴らしでもしよう。
そう考えが行き着いた時、啜り泣く声を耳にして顔を上げた。


斜め上のバルコニーに人がいる。
暗かったが、それが誰だかわかった。


「……恵」

「…やぁ、ベル君」


呼べば手摺に座って踞っていた恵が顔を上げる。
久しぶりに聴いた恵の声は、涙声だった。


「パーティーだって言うのに、隅っこでなに泣いてんだよ?上司にいじめられてんの?」

「そうなんだよ、命令で嫌々参加したけど…逃げてきちゃったんだぁ」


冗談で笑って答える恵。


「パーティー嫌い?」

「んー。まぁ。あれよ。ほら、あたし高嶺の花じゃん?パーティーで男が群がるからパーティーはちょっと」

「自意識過剰?」

「いやいや、本当だよ。イタリア語だからわからなかったけどかなりアプローチされたぜ。ふっ…自意識過剰になれるほど美人だとは思っていないさ」


泣いているとは思えないくらい雄弁に冗談を言う恵をベルは頬杖をついて見上げた。

顔はいい方だとベルは認めている。

さっき見回したパーティー会場の中では、恵が一番美人だろう。


「まだ居たんだ、恵」

「あたしは帰りたいんだけどね」


恵は明るい声を出す。


「─────…スクアーロも来てる?」


恵が華やかなパーティー会場の外で泣いているのは、上司のいじめなんかではないことくらいわかっていた。


「一緒に来た」


だがベルにとって好都合だ。


「会いに来てくれて嬉しいなぁ」


本当に嬉しいかどうかわからない。

綱吉の驚き様を見れば、ヴァリアーがパーティーに来ることが可笑しいことぐらいわかる。

わざわざこのタイミングに来たということは、会いに来たと推測できた。



「どうしてスクアーロはあたしを帰してくれないのかなぁ…」

「束縛されて可哀想」

「そう思うなら説得してくれない?」

「オレが説得するように見える?」

「ですよね」


恵は笑いながら目尻を拭く。





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