105 「パーティー、苦手なの?」
運命の相手。
まるで約束されたみたいに、必然的に巡りあって─────心が惹かれる存在。
「あの…本当に明日のパーティー…でなくてはいけないのですか?」
板についた敬語で恵は悄気たように雇い主の綱吉に何度目かわからない質問をした。
「うん。ボンゴレファミリーのパーティーで、ほとんどのファミリーが参加するんだ。恵ちゃんもファミリーだし、秘書として隣にいてほしいんだ」
「…ですが10代目。あたしはイタリア語がなんとなく読めるだけで、イタリア語が話せません。そんな秘書が10代目の隣にいていいのでしょうか。イタリア最強のマフィアボスの秘書がイタリア語を話せないなんて汚点。だからと言って一日でイタリア語を覚えるなど英語すらまともに話せないあたしには無理難題…!無理矢理覚えようと徹夜をすれば酷い顔で10代目の隣に立つことになってしまいます!どちらにせよ、10代目に恥をかかすと思います!」
「オレだってまだ全然喋れてないよっ?日本語通じるから大丈夫!それに…恵ちゃんがいると心強いんだ。頼むよ、恵ちゃん」
「うっ…」
訴えも虚しく綱吉に捨てられた仔犬のような眼差しで頼み込まれて恵は断れなくなった。
ティアナと山本になんとかしてパーティーに参加させろと言われていた綱吉はひやひやしていた。ついに諦めて参加を決めてくれてホッとする。
嘘はついていない。
誰かに似て、恵がそばにいると不思議と緊張が和らぐのだ。
重要な書類を目の当たりにすると手が震えてしまうが、恵が笑いかければ震えはおさまった。
明日のパーティーも、挨拶回りをする時緊張を和らいでほしい。
「パーティー、苦手なの?」
「…ボンゴレのパーティーに興味はありますが、10代目に恥をかかせないかが心配です…」
綱吉の心配。
恵は優しい。
「それはないから、大丈夫だから。心配しないで」
綱吉は恵の肩を軽く叩いて笑いかけた。
「10代目!!山本が絡まれました!援護に向かいます!!」
そこでノックもせずに扉を乱暴に開けて獄寺は報告。
開けた拍子に山積みの書類が崩れ落ちた。
「っオレも!」
綱吉が飛び上がるように立ち上がるものだから、また別の山積みの書類が落ちる。
「ごめんっ恵ちゃん!!恵ちゃんはここに待機!」
「えっ…ああ…」
はい、と恵が頷く前に綱吉は獄寺と共に部屋を出ていった。
一人置き去りにされた恵は散らばった書類に目を落とす。これを一人で広い集めなくてはいけない。
ガクリと項垂れつつも膝をつく。
「今日は残業かな…」
緊急事態なのだから仕方がない。
絡まれましたとはチンピラとかではなく、マフィアと戦闘状態と言う意味なのだろう。
友達が攻撃されているのにじっとしていられないのはわかるが、ボスである綱吉が真っ先に飛び出すのはどうなんだろうか。
リボーンに怒られそう。
せっかく分けて置いておいたのにやり直しだ。
(重要な単語だけ覚えて振り分けるってある意味、特技だよね)
イタリア語全てを覚えているわけではない。
クロームとティアナに重要性ある単語中心に教わって、なんとかそれを見分けて振り分けている。
そんな自分が本当にイタリア人に混じって、10代目の秘書として参加していいのだろうか。
挨拶程度のイタリア語力しかない。
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