空色少女 再始動編
362
ベルがイタリアに帰国してから二週間後に、マーモンが会いに来た。
頼み事のために。
「それだけでいいのかい?」
「うん、頼む」
学校の放課後。
並森でマーモンと向き合って立つ。
紅奈は首を回して息をついて、準備を整えた。
「じゃあーーーーーーいくよ」
マーモンは言われた通り、紅奈に幻術をかける。
森の中に波が押し寄せた。怒涛に押し寄せたその波が紅奈を飲み込む。
「っ!!」
それが幻覚だと理解していても、トラウマが手伝って支配される。
森から水底に成りかわる視界。
海底の中。
息なんてできるはずがない。
「っゲホ! ゲホ!!」
「大丈夫かい!?」
途端に海底は消えた。
崩れ落ちる紅奈は飲み込んだ海水を吐き出そうとしたが、海水なんて飲んでいない。
それはまやかし。
「……ハァ……ハァ……」
紅奈に頼まれたのは、海中にいる幻覚を見せることだった。
幻術を見破る紅奈にこんなことは果たして意味があるのかどうかわかなかったが、頼みを聞くと頷いてしまったマーモンは実行したのだ。
結果に戸惑った。
予想に反して紅奈は、幻覚に溺れかけた。
「ま、まさか……お嬢…!」
この行為の意図に気付く。
スクアーロから飛行機事故の話は聞いていた。
幻覚に動揺して呑まれたのを見て、トラウマだと知る。
紅奈はトラウマを克服しようと、幻覚を使って荒治療をしようとしているのだ。
「無茶だよ! お嬢! 下手したら窒息死するよ!」
「…マーモン。あたしさ」
乱れた呼吸を正常に戻した紅奈が口を開く。
「男が二言を言うのを見るとさ……ぶっ飛ばしたくなるんだよね」
見下す瞳は限りなく凍てついてマーモンは震え上がった。
「べ、別にやめたいとは言ってないよ! ただねっ! この荒治療をやるにあたって…万が一呼吸が停まった時のために心肺蘇生する役がいないといけないと思うんだ! 僕は出来ないし!」
ガクガクと震えつつも、マーモンは言う。
このままでは紅奈を殺害することになる。
殺害したら、色んな猛獣に仇討ちとして命を狙われるのだ。
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