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空色少女 再始動編
336 ご褒美




「…キングなんて知らね」

「…あたしがなんかした?」


拗ねてる原因は自分にあると漸く気付いた。


「……紅奈なんて知るかよ…もう…。あのライオン連れてきたのはオレなのに…褒美の一つもねーし……。鮫と一晩二人きりで寝やがるし……跳ね馬と遊びに行くし………………もう紅奈なんて知らねっ!」


紅奈の放り投げたクッションでベルは顔を覆う。

そのベルの手にはベスタにやられた引っ掻き傷だろうか、絆創膏がいくつもあった。


「嫉妬してんの?」

「…………………………」


紅奈の直球な問いにベルは沈黙を貫いた。


それ以外なにがあるんだ。

なんで訊くんだよ。

紅奈はわかってない?
気付いてない?


なんでキスしたと思っているんだ。


もう知らね。
マジで紅奈なんて知らねぇ!


ベルは顔の上に置いたクッションをギッと両腕で締め付けた。


暫くしてギシ、とベッドが軋んだ。


それに驚いてベルは飛び起きた。


既に紅奈はベッドに乗り込んでベルの目の前まで来ていた。
目の前というか、ベルの上だ。


ベルの足の間に両膝をついて、両手はベルの両脇をすり抜けてシーツの横に置かれた。


逃げ場を失ったベルは硬直する。

紅奈の微笑みが近付く。


「な………に……?」


微笑みを浮かべたまま距離十五センチを保つ紅奈にこの行動の意図を問う。


ベル。ご褒美、欲しい?


首を傾けて見上げる紅奈。
隠しているはずの瞳が見えているかのように、紅奈の瞳が見つめてくる。


ドクン、と心臓が跳ねた。


「…ご褒美って…?」


ベルは動揺が伝わらないように訊いてみる。


訊いたが紅奈は答えない。

代わりに紅奈の右手が、ベルの顎に添えられる。


ドクン、ドクン、ドクン。


紅奈が身を乗り出してきたから距離は十センチに縮まった。


橙色混じりの茶色の瞳が細められて、桜色の唇が近付く。


紅奈を見つめていたかったが、ベルは目を閉じた。

近付く気配を感じながら、自分の心音を聴く。


ドクン、ドクン、ドクン。


紅奈の匂いがする。


ドクン、ドクン、ドクン。


8。


7。


6。


5。


ドクン、ドクン、ドクン。


4。


3。






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