空色少女 再始動編
281 照らす光
忘れていた。
仮にもディーノはボスでも、部下の前でしか本領を発揮できないある意味究極のボス体質の持ち主。
部下がいなければ綱吉並のドジを発揮する。
つまりは戦闘員になるどころか、自滅するのだ。
火傷したようにヒリヒリと熱い痛みがする額を押さえる紅奈は、ふと目の前の水溜まりに目が留まった。
水溜まりには自分の顔と、空と虹が映っている。
────跳ね馬以外は殺せ。
マフィア達の言葉は紅奈には分からなかったが、なんと言ったのか直感した。
このど阿呆のせいで殺されるだと?
ふ ざ け ん な よ
額から違う熱さを感じた時には、もう一人を蹴り飛ばした後だった。
「誰を殺すって?」
問いつつも返答を待たずにまた一人、踵を叩き付けて落とす。
「こんなとこで死ぬつもりはないっ!」
敵は気付いたが反応できなかった。
俊敏に動くたった一人の少女に、確実に決められた攻撃で沈められる。
なにもできず、意識を失った。
「あたしの仲間に手出すな」
その言葉は彼らの耳にはいるわけがなかった。
全員、強烈な一撃を食らい気を失ったのだから。
スクアーロ達はなにも出来なかった。
目を奪われ、動けない。
胸が焼かれたように焦がれている。
それはあの時の、気持ちを甦らせた。
初めて彼女を視た、あの時の衝撃をまたもう一度味わう。
あの時の胸の高鳴りをまたもう一度感じる。
あの時より少しだけ背が高くなった。髪も伸びてくるりとはねていて、あの時より随分女の子らしい。
変わらないのは、そう。
あの光だ。
額の橙色の炎と同じ。
心の奥底まで見透かされているような錯覚に落ちる世界を見透かすような瞳。
その瞳は澄んでいて美しい。
まるで額に灯る炎がその中で燃えているようにも思えた。
「──────スク、ベル」
目の前の紅奈が、自分を呼んだ。それだけで心臓が跳ねる。
額の炎は消えた。
それでもその瞳は変わらない。
自信に溢れたような微笑。
不敵で挑発的にも見える。
なのに不快ではない。
その笑みが、ベルは大好きでたまらないのだ。
その笑みに惚れた。
その笑みで紅奈に惚れた。
ボスとして、キングとして、一人の女として。
「あたしがボンゴレ10代目になる」
変わらない揺るぎのない強い意志。
「お前達はあたしをボスと認めてついてきた。なのにあたしは突き放そうとした…馬鹿だな。……取り消しする」
紅奈が一度目を伏せた。
しゃがんだままスクアーロとベルは紅奈の言葉を待つ。
動けないからだ。
動けそうにもなかった。
これから紅奈が、何を言うのか。
それを訊くべきだとはわかるんだ。
紅奈は微笑んだ。
優しげな微笑。
「自分で選べ。────あたしのそばにいていい」
光が差し込んだ。
自分を照らすのがわかった。
もう照らしてくれないと思った光。
遠退いてしまったと思った光。
また差し込んだ。
照らしている。
あの時のようだ。
再び紅奈が手を差し伸ばしてきた。
それがどれだけ嬉しいことなのか、紅奈はわかっているのだろうか?
真っ暗だった足元も明るくなる。
温かい光だ。
紅奈がわかっていなくてもいい。
今度こそ。今度こそ失わないように、その手を掴み応えよう。
もう二度と、放すものか。
何度だって惹かれる。
何度だって魅了される。
何度だって手を伸ばす。
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