空色少女 再始動編
312 笑顔の為に
黒を身に纏った少女を、車のボンネットに座ったままオレは黙って見つめた。
一年前と同じ場所に座り込んでいる。
初めて会った時は、栗色の短い髪をしていて涙を浮かべていた。
今にも泣き出しそうな顔をしていたのに、その瞳の中にはまだ何かを諦めない強い意志が宿っていた。
その瞳が印象的な少女。
ボンゴレ9代目を罵った少女。
激情を込めた瞳はやはり強い。
だが、彼女は泣いた。
あの場所で。
誰かを待ち続けるように、そこにずっと座っていた。
強く強く願うように、待っていたが漸く誰も来ないと悟り泣いていた。
「雪が降るまでか…」
今も誰かを待つ彼女が見上げている空を見上げて呟く。雪が降りそうな気温だ。
いつまでも寒空の下に居させられない。
だが、会わせてやりたいと思う。
彼女が待ち望んでいるのだから。
あんな風に一人、泣かせられない。
こんなに彼女を待たせる者の顔見たさもあったが、何よりオレは。
彼女を見守りたいと思った。
「いや、違うな」
首を横に振る。
ハットの上のレオンは首を傾げた。
「オレはな、レオン」
ただ。
虹が映り込む水溜まりの雫を弾いて、笑顔で手を振った紅奈が焼き付いた。
オレに向けられた笑顔ではなかったが、それでも。
「──────オレはただ、もう一度あの笑顔が見てぇだけなんだ」
ハットを深く被り、目を閉じれば鮮明に思い出せるくらい色鮮やか。
「あの子は……笑顔の可愛らしい娘なんだ」
ボンゴレの9代目も言っていた笑顔。
オレはただ。
待ち続けている相手と会ったその時に溢れる笑顔見たさに、ここまでついてきたんだ。
オレがここまでするくらい、いい女だってことだな。
「!」
本当に雪が降ってきた。
ひらひらと蛍の光のようにふわりと落ちる。
残念だが、今日も諦めるしかない。
レオンをマフラーにして、ハンカチを片手にオレは紅奈の元に向かった。
すぐに紅奈の異変に気付く。
よろ、と立ち上がった紅奈は壁に寄りかかっていて、その頬は先程よりも赤みが強くなっていた。
オレが声をかけるより前に、紅奈はその場に崩れ落ちる。
咄嗟にレオンが受け止めた。
額に手をやれば、高熱。
紅奈は苦しそうに呼吸をしていた。
「レオン、車に運べ」
ここからだと。
「ヴァリアーの方が近い」
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